並んで歩くなら、あなたと
 もう少しで触れそうになったとき、バタバタと足音がして我に返った。


「……何してんの」

「ごめん。本当にごめん……!!」


 顔を上げると、校舎の向こうからさっきのサッカー部のやつが気まずそうな顔で歩いてきた。

 花菜ちゃんを庇うように立ち上がった。


「あの、マジでごめん」

「何しに来たんだよ」

「坂木と由紀さんに謝りにきたんだけどさ」


 そいつは困った顔で俺の後ろをうかがった。

 首だけ後ろに向けると、花菜ちゃんが立ち上がって俺の隣にきた。


「私には謝らなくていいです。自分より小さい女に足で負けて悔しいのは仕方ないので。でも世菜先輩には謝ってください。先輩はけんかっ早い私を止めてくれたじゃないですか。先輩が止めなかったら、私はあなたに怪我をさせていました」

「……坂木、ごめん。俺が悪かった」

「いや、俺はいいけど。大した怪我じゃないし。由紀さん?」


 花菜ちゃんは小さく首を横に振った。

 俺はまた前を向いた。


「俺は大丈夫だから気にしないで。サッカー部の部長にもそう言っておいてくれ」

「わかった。いろいろごめん。……じゃあ」



 そいつの姿が見えなくなってから振り向いた。

 花菜ちゃんはぼんやりした顔で校舎の方を見ていた。


「花菜ちゃん、戻ろうか」

「うん」


 本当はさっきの続きをしたいけど、そろそろ最終下校時刻だった。

 夕日が傾いて、花菜ちゃんのきれいな髪や大きな瞳をオレンジ色に照らしている。


「花菜ちゃんはきれいだね」

「……なんですか、いきなり」

「そう思ったんだ。帰ろう。俺、疲れちゃった」

「私もです」


 ホースやじょうろ、バインダーを手分けして持ち、中庭に戻った。

 部長に作業報告と、サッカー部が謝りに来たことを伝えておく。



 花菜ちゃんを家まで送ると、背の高い男の子が入り口に立っていた。


「ゆず、どしたの。先輩、この子、弟の柚希(ゆずき)です。中学二年生です。ゆず、この人、部活の先輩。この前話した、ナンパからかばってくれた人」

 会釈をすると、柚希くんも同じように軽く頭を下げてくれた。

 ……お父さんの瑞希さんによく似た、鋭い目つきと広い肩幅をした、強そうな男の子だ。

 柚希くんは顔をしかめて花菜ちゃんを見た。


「親父が心配してる」

「なんで?」

藤也(とうや)が連絡してきたから」

「余計なことを」

「んで、母さんが切れてる」

「……なんで?」

「同じような舐められ方をしてきてるから」

「あー、そう……。わかった。教えてくれてありがとう。先輩、送ってくれてありがとうございました」


 花菜ちゃんはやっと笑ってくれて、俺に小さく手を振った。


「どういたしまして。明日明後日は休みだから、また火曜日の朝に」

「はい、また」


 自転車のペダルを踏み込んだ。

 角を曲がる直前に振り返ったら、由紀姉弟がまだ見送ってくれていて、口元が緩んだ。
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