並んで歩くなら、あなたと
夜、ごはんと風呂を済ませて宿題をしていたら、スマホが鳴った。
「……はい」
『もしもし、今いい?』
やけに嬉しそうな世菜先輩の声が聞こえた。
その向こうはざわざわしていて、きっと宿からかけているんだろう。
「少しなら」
『いきなりごめん。花菜ちゃんの声が聞きたかったから』
それは、どういうつもりで言ってるんだろう。
同じ班の女の子たちと楽しそうにしていたじゃない。それを私に送る理由も、私の声が聞きたいという理由も、私にはまったくわからなかった。
先輩はスマホの向こうで、今日見た海のきれいさとか、花の鮮やかさを語っている。
それを、どうして私に聞かせたいと思ったの。
電話の向こうで女の子が先輩を呼ぶ声がした。
先輩は「今電話してるから」と断っている。
「ごめん。それで、見晴らしがすごく良くて……花菜ちゃん?」
「坂木先輩」
自分の口から、びっくりするくらい冷たい声が出た。
スマホの向こうで、先輩が息をのんだのが聞こえた。
「……花菜、ちゃん?」
「先輩がどういうつもりで女の子たちといちゃいちゃしてる写真を送ってくるのか、私にはわかりません」
「え、なにそれ、どういうこと?」
「私のセリフです。そういう写真を送られても、困りますし気分が良くないのでやめてください。あの、花や風景の写真はすごく素敵でした。ありがとうございます。沖縄、楽しいんですよね? 先輩が修学旅行楽しめてよかったです。……失礼します」
一気に言って、通話を切った。
スマホを枕の下に突っ込んで、部屋を出る。
一階に降りて歯を磨いていたら、パパが顔を出した。
「明日の畑の世話だけど……って、どうした?」
「どうもしない」
「どうもしないって顔じゃねえよ。まあいいや」
パパは明日の花の世話の予定を説明して、最後に私の頭をぐしゃっと撫でた。
「俺にできることなんて、何もねえけどさ、しんどかったら言えよ」
「ありがと、パパ」
歯磨きを終わらせて、部屋に戻った。
スマホの画面を見ないようにして充電器につないで、部屋の明かりを消した。
その瞬間スマホが鳴り出す。
無視しようとしたけど、しつこく鳴っていて、根負けしてスマホを見たら、電話をかけてきたのは世菜先輩と同じクラスの翠先輩だった。
「……はい、由紀です」
『遅くにごめんねえ、由紀さん。坂木が、今めちゃくちゃ泣いてて』
「それ」
『黄乃が説教してるんだけど』
「え」
黄乃先輩は翠先輩の彼女だ。世菜先輩と三人で同じクラスだけど、なんで?
『坂木と同じ班の女子が坂木に気があるらしくてさ。修学旅行で告ろうとしてたんだって。だけどあいつ、由紀さんのことしか見てねえから、同じ班の馬鹿と一緒に坂木と由紀さんに嫌がらせのつもりで写真撮って送ったらしくて』
納得半分、ばかばかしい半分。
思わず、ため息がこぼれた。
「翠先輩。私、かわいいじゃないですか」
『え、うん。俺の黄乃のほうがかわいいけど、うん』
「だから、その手の恋愛のいざこざに幼稚園のころから延々と巻き込まれ続けて、うんざりなんです」
『おお……マジか、幼稚園て』
わかってる。翠先輩に言うようなことじゃない。
誰にも言ったことないし、言えるような相手もいない。
でも止まらなかった。
「この学校に入ったのだって、私よりモテる藤也と桔花と蓮乃がいるからです。みんな藤也にいくから、私は面倒に巻き込まれずに済むって思ったのに、なんなんですか……!」
『えっと』
「すみません、翠先輩は悪くないし、関係ないです。でも、これ以上世菜先輩が私をその手のゴタゴタに巻き込むなら、私は園芸部を辞めます」
『マジか、いや俺はいいけど、ちょ、坂木!?』
電話の向こうで何か聞こえたけど、くぐもっていてよく分からない。
少しして、か細い声が聞こえた。
『花菜ちゃん、ごめん』
「……先輩」
『ごめんなさい、本当に、ごめん……』
すすり泣きが聞こえた。
別に、世菜先輩も悪くない。それは分かってるけど、これ以上はうんざりだった。
「先輩、聞いてますよね。明日以降、私がお願いした写真以外は送ってこないでください。先輩が誰と付き合おうが、誰に告白されようが、私の知ったことじゃありません。巻き込まないでください」
誰からも返事はなかった。
翠先輩も、黄乃先輩も、……世菜先輩も、何も言わなかった。
「修学旅行中に騒がせてごめんなさい。明日も楽しんでください。おやすみなさい」
棒読みで一気に言ってから、通話を切った。
今度はスマホの電源を切ってから枕の下に突っ込む。
目を閉じて布団を被って耳を塞いだ。
「……はい」
『もしもし、今いい?』
やけに嬉しそうな世菜先輩の声が聞こえた。
その向こうはざわざわしていて、きっと宿からかけているんだろう。
「少しなら」
『いきなりごめん。花菜ちゃんの声が聞きたかったから』
それは、どういうつもりで言ってるんだろう。
同じ班の女の子たちと楽しそうにしていたじゃない。それを私に送る理由も、私の声が聞きたいという理由も、私にはまったくわからなかった。
先輩はスマホの向こうで、今日見た海のきれいさとか、花の鮮やかさを語っている。
それを、どうして私に聞かせたいと思ったの。
電話の向こうで女の子が先輩を呼ぶ声がした。
先輩は「今電話してるから」と断っている。
「ごめん。それで、見晴らしがすごく良くて……花菜ちゃん?」
「坂木先輩」
自分の口から、びっくりするくらい冷たい声が出た。
スマホの向こうで、先輩が息をのんだのが聞こえた。
「……花菜、ちゃん?」
「先輩がどういうつもりで女の子たちといちゃいちゃしてる写真を送ってくるのか、私にはわかりません」
「え、なにそれ、どういうこと?」
「私のセリフです。そういう写真を送られても、困りますし気分が良くないのでやめてください。あの、花や風景の写真はすごく素敵でした。ありがとうございます。沖縄、楽しいんですよね? 先輩が修学旅行楽しめてよかったです。……失礼します」
一気に言って、通話を切った。
スマホを枕の下に突っ込んで、部屋を出る。
一階に降りて歯を磨いていたら、パパが顔を出した。
「明日の畑の世話だけど……って、どうした?」
「どうもしない」
「どうもしないって顔じゃねえよ。まあいいや」
パパは明日の花の世話の予定を説明して、最後に私の頭をぐしゃっと撫でた。
「俺にできることなんて、何もねえけどさ、しんどかったら言えよ」
「ありがと、パパ」
歯磨きを終わらせて、部屋に戻った。
スマホの画面を見ないようにして充電器につないで、部屋の明かりを消した。
その瞬間スマホが鳴り出す。
無視しようとしたけど、しつこく鳴っていて、根負けしてスマホを見たら、電話をかけてきたのは世菜先輩と同じクラスの翠先輩だった。
「……はい、由紀です」
『遅くにごめんねえ、由紀さん。坂木が、今めちゃくちゃ泣いてて』
「それ」
『黄乃が説教してるんだけど』
「え」
黄乃先輩は翠先輩の彼女だ。世菜先輩と三人で同じクラスだけど、なんで?
『坂木と同じ班の女子が坂木に気があるらしくてさ。修学旅行で告ろうとしてたんだって。だけどあいつ、由紀さんのことしか見てねえから、同じ班の馬鹿と一緒に坂木と由紀さんに嫌がらせのつもりで写真撮って送ったらしくて』
納得半分、ばかばかしい半分。
思わず、ため息がこぼれた。
「翠先輩。私、かわいいじゃないですか」
『え、うん。俺の黄乃のほうがかわいいけど、うん』
「だから、その手の恋愛のいざこざに幼稚園のころから延々と巻き込まれ続けて、うんざりなんです」
『おお……マジか、幼稚園て』
わかってる。翠先輩に言うようなことじゃない。
誰にも言ったことないし、言えるような相手もいない。
でも止まらなかった。
「この学校に入ったのだって、私よりモテる藤也と桔花と蓮乃がいるからです。みんな藤也にいくから、私は面倒に巻き込まれずに済むって思ったのに、なんなんですか……!」
『えっと』
「すみません、翠先輩は悪くないし、関係ないです。でも、これ以上世菜先輩が私をその手のゴタゴタに巻き込むなら、私は園芸部を辞めます」
『マジか、いや俺はいいけど、ちょ、坂木!?』
電話の向こうで何か聞こえたけど、くぐもっていてよく分からない。
少しして、か細い声が聞こえた。
『花菜ちゃん、ごめん』
「……先輩」
『ごめんなさい、本当に、ごめん……』
すすり泣きが聞こえた。
別に、世菜先輩も悪くない。それは分かってるけど、これ以上はうんざりだった。
「先輩、聞いてますよね。明日以降、私がお願いした写真以外は送ってこないでください。先輩が誰と付き合おうが、誰に告白されようが、私の知ったことじゃありません。巻き込まないでください」
誰からも返事はなかった。
翠先輩も、黄乃先輩も、……世菜先輩も、何も言わなかった。
「修学旅行中に騒がせてごめんなさい。明日も楽しんでください。おやすみなさい」
棒読みで一気に言ってから、通話を切った。
今度はスマホの電源を切ってから枕の下に突っ込む。
目を閉じて布団を被って耳を塞いだ。