並んで歩くなら、あなたと
15.たぶん、しょんぼりした先輩がホッとしように笑う瞬間が好きなんだと思う
修学旅行の二日目、俺、坂木世菜は起きた瞬間から頭が痛かった。……寝る前に、干からびそうなくらい泣いたから。
のそのそと旅館の重たい布団から出て、顔を洗う。
鏡の中には、情けない顔をしたボサボサ頭の男が、赤くて腫れぼったい目でこっちを見ていた。
ため息をついてから着替えて布団を片付ける。
スマホを見てもなんの通知もない。
画像アプリを開いて、昨日撮った写真のうち、俺が自分で撮ったやつ以外を削除した。
写真を少し遡ると、体育祭のときに撮ったものが出てくる。
俺の大好きな女の子が真剣な顔で走るところや、ぽかんとした顔で俺と一緒に写っているもの。
嫌な思いなんか、一つだってさせたくなかったのに。
ただただ、君には笑っていてほしいのに。
同じ部屋の連中が起きてきたから、カーテンを開けた。
昨日は気づかなかったけど、窓の外は海で、朝日に照らされた青い海がキラキラしている。
思わずスマホを向けた。
俺がきれいだと思ったものを、あの子にも見せたかった。
「なあ、坂木」
「……なに?」
いつの間にか近くに翠が立っていて、心配そうに俺を見ていた。
「今日も班行動だけど、大丈夫そう?」
「何が大丈夫で、何が大丈夫じゃないのか、俺にはわかんないよ」
「ダメなやつだな。その写真、由紀さんに送るの?」
「送りたいけど……」
手元のスマホを見た。
昨日、あれだけ嫌がられたのに、また送るのは……。
「そもそも、坂木は由紀さんに写真を送る約束はしてたんだろ? なんか頼まれてたんじゃねえの?」
「うん。沖縄にしか生えてない植物があったら、写真送ってって」
「ふうん。まあそれ、植物じゃねえけど、いいんじゃない? 人は写ってないし、沖縄でしか見られない景色だし」
「いいかな」
「知らねえ。あ、でも俺も撮って、黄乃に送ろう」
翠はスマホを構えて、ああでもないこうでもないとブツブツ言ってから、写真を撮って送った。すぐに返事が来て、似たような写真が添付されていた。
『私の部屋からも海見えるよ。坂木くん、生きてる?』
「心配されてるけど、生きてる?」
翠が苦笑して俺を見た。
俺は、生きているんだろうか。
スマホに指を滑らせた。
大好きなあの子の名前に触れて、さっき撮った写真を選んだ。
「おはよう。昨日はごめん。起きてカーテンを開けたら海がきれいだったから送るけど、嫌だったら教えて」
そう送ったらすぐに既読がついた。
俺より、横で見ている翠の方がソワソワしている。
すぐに写真が送られてきた。
「これ……由紀さんの家の畑だ」
アジサイやシャクヤク、カラーが畑一面に咲いている。
「すげえ、めっちゃ広いしきれいだなーって、おい、坂木、なんで泣いてるんだよ」
「わ、わかんない。わかんないけど、なんか泣けてきた」
メッセージも送られてきた。
『おはようございます。私こそ、ごめんなさい。海の写真、ありがとうございます。今朝のうちの畑です。今日は水族館行くんですよね。魚の写真、楽しみにしてます。マナティお願いします』
「俺、許してもらえたのかな」
「知らねえけど、お前の写真、楽しみにしてるってさ」
「うん……」
「で、どう? 坂木、生きてる?」
「生きてる……!」
翠は笑って、黄乃さんに「大丈夫みたい」と送っていた。
俺は短く返信してからスマホをポケットに入れて、顔を洗い直した。
同じ部屋の全員の支度が済んだので、朝ごはんを食べに食堂へ向かった。
班ごとに食べるため、入り口で翠と別れた。
「坂木くんおはよ」
「おはよ」
同じ班の女の子に挨拶を返して、朝飯の写真を撮った。水族館で何を見たいかや、昼飯は何かという話を聞きながら、さっさと食べた。
「坂木、食ってるとこ撮ろうか?」
「いや、いいや」
「今日は写真送らないの?」
女の子たちが笑顔でこっちを見ていたから首を振った。
「送るけど、頼まれてる写真があるから」
「坂木くんの写真も一緒に送ろうよ」
「ううん、俺の写真はいらないって言われた。俺の片思いだからさ」
そう言うと、俺を見ていた女の子たちの顔が引きつった。
最初からちゃんとそう言っておけばよかった。
俺はあの子が大好きだけど、あの子は別にそうでもない。
だから余計なことはしたくないって。
「嫌われたくないし、喜んでほしいから、欲しいって言われたのだけ送る。あ、土産買わなきゃ」
食い終えたのでトレーを片付け、翠や他の園芸部員のところへ向かった。
「なあなあ、花菜ちゃん、何買ってったら喜ぶかな」
「知らねえ、本人に聞け」
「そうする」
騒がしい食堂を出て、旅館の土産物屋へ向かった。
シーサーの置物や、シークワーサージュース、かりゆしなどが売っている。
あの子はお土産を渡したらどんな顔をするだろう。
それを考えるだけで、売っているものを全部買って帰りたかった。
***
のそのそと旅館の重たい布団から出て、顔を洗う。
鏡の中には、情けない顔をしたボサボサ頭の男が、赤くて腫れぼったい目でこっちを見ていた。
ため息をついてから着替えて布団を片付ける。
スマホを見てもなんの通知もない。
画像アプリを開いて、昨日撮った写真のうち、俺が自分で撮ったやつ以外を削除した。
写真を少し遡ると、体育祭のときに撮ったものが出てくる。
俺の大好きな女の子が真剣な顔で走るところや、ぽかんとした顔で俺と一緒に写っているもの。
嫌な思いなんか、一つだってさせたくなかったのに。
ただただ、君には笑っていてほしいのに。
同じ部屋の連中が起きてきたから、カーテンを開けた。
昨日は気づかなかったけど、窓の外は海で、朝日に照らされた青い海がキラキラしている。
思わずスマホを向けた。
俺がきれいだと思ったものを、あの子にも見せたかった。
「なあ、坂木」
「……なに?」
いつの間にか近くに翠が立っていて、心配そうに俺を見ていた。
「今日も班行動だけど、大丈夫そう?」
「何が大丈夫で、何が大丈夫じゃないのか、俺にはわかんないよ」
「ダメなやつだな。その写真、由紀さんに送るの?」
「送りたいけど……」
手元のスマホを見た。
昨日、あれだけ嫌がられたのに、また送るのは……。
「そもそも、坂木は由紀さんに写真を送る約束はしてたんだろ? なんか頼まれてたんじゃねえの?」
「うん。沖縄にしか生えてない植物があったら、写真送ってって」
「ふうん。まあそれ、植物じゃねえけど、いいんじゃない? 人は写ってないし、沖縄でしか見られない景色だし」
「いいかな」
「知らねえ。あ、でも俺も撮って、黄乃に送ろう」
翠はスマホを構えて、ああでもないこうでもないとブツブツ言ってから、写真を撮って送った。すぐに返事が来て、似たような写真が添付されていた。
『私の部屋からも海見えるよ。坂木くん、生きてる?』
「心配されてるけど、生きてる?」
翠が苦笑して俺を見た。
俺は、生きているんだろうか。
スマホに指を滑らせた。
大好きなあの子の名前に触れて、さっき撮った写真を選んだ。
「おはよう。昨日はごめん。起きてカーテンを開けたら海がきれいだったから送るけど、嫌だったら教えて」
そう送ったらすぐに既読がついた。
俺より、横で見ている翠の方がソワソワしている。
すぐに写真が送られてきた。
「これ……由紀さんの家の畑だ」
アジサイやシャクヤク、カラーが畑一面に咲いている。
「すげえ、めっちゃ広いしきれいだなーって、おい、坂木、なんで泣いてるんだよ」
「わ、わかんない。わかんないけど、なんか泣けてきた」
メッセージも送られてきた。
『おはようございます。私こそ、ごめんなさい。海の写真、ありがとうございます。今朝のうちの畑です。今日は水族館行くんですよね。魚の写真、楽しみにしてます。マナティお願いします』
「俺、許してもらえたのかな」
「知らねえけど、お前の写真、楽しみにしてるってさ」
「うん……」
「で、どう? 坂木、生きてる?」
「生きてる……!」
翠は笑って、黄乃さんに「大丈夫みたい」と送っていた。
俺は短く返信してからスマホをポケットに入れて、顔を洗い直した。
同じ部屋の全員の支度が済んだので、朝ごはんを食べに食堂へ向かった。
班ごとに食べるため、入り口で翠と別れた。
「坂木くんおはよ」
「おはよ」
同じ班の女の子に挨拶を返して、朝飯の写真を撮った。水族館で何を見たいかや、昼飯は何かという話を聞きながら、さっさと食べた。
「坂木、食ってるとこ撮ろうか?」
「いや、いいや」
「今日は写真送らないの?」
女の子たちが笑顔でこっちを見ていたから首を振った。
「送るけど、頼まれてる写真があるから」
「坂木くんの写真も一緒に送ろうよ」
「ううん、俺の写真はいらないって言われた。俺の片思いだからさ」
そう言うと、俺を見ていた女の子たちの顔が引きつった。
最初からちゃんとそう言っておけばよかった。
俺はあの子が大好きだけど、あの子は別にそうでもない。
だから余計なことはしたくないって。
「嫌われたくないし、喜んでほしいから、欲しいって言われたのだけ送る。あ、土産買わなきゃ」
食い終えたのでトレーを片付け、翠や他の園芸部員のところへ向かった。
「なあなあ、花菜ちゃん、何買ってったら喜ぶかな」
「知らねえ、本人に聞け」
「そうする」
騒がしい食堂を出て、旅館の土産物屋へ向かった。
シーサーの置物や、シークワーサージュース、かりゆしなどが売っている。
あの子はお土産を渡したらどんな顔をするだろう。
それを考えるだけで、売っているものを全部買って帰りたかった。
***