並んで歩くなら、あなたと
24.空が青いのも、ポストが赤いのも、寂しくて仕方ないのも全部先輩のせいだ
文化祭準備も佳境に入って、私はあちこちを走り回っていた。
クラスの準備も忙しいし、放課後も文化祭の準備と部活で手一杯で、校門の手伝いをすることが多かった。
私も世菜先輩も部活に行かないわけじゃないけど、自分たちの担当である裏門の水やりもそこそこに、クラスに戻ったり校門の手伝いに行ったりしないといけなくて、前みたいに二人でのんびり花の世話はできなかった。
……ていうか、先輩が変だ。
前みたいに、べったり甘えなくなった。
夏休みが終わってから文化祭準備が忙しくて、部活前に迎えに来なくなったのは仕方ないけど、中庭で待ち合わせることもできなくなっていた。
文化祭の二日前の放課後、先輩から『今日は裏門はこっちでやっておくよ』とだけメッセージが来て、裏門に行くと、先輩が一人で水やりをしていた。
「世菜先輩」
「由紀さん、おつかれさま」
「……はい。枯れ葉、集めておきますね」
「それも俺がやっておくから、校門の手伝いに行っておいで」
「でも」
「ここは元々俺が一人でやってたから大丈夫。向こうは人手不足だから、手伝ってきて」
「……わかりました」
と言いつつ、水やりをしていて振り向きもしない先輩を覗き込んだ。
先輩は一瞬困った顔をしてから、ゆっくり微笑む。
全然かわいくない顔だ。
「由紀さん」
「なんでしょうか、坂木先輩」
わざと冷たい声を出したら、先輩の顔がくしゃっと歪んだ。
私は両手を伸ばして、先輩の髪を撫でた。
ふわふわの髪に隠れて、目元が見えなくなる。
「行ってきますね、世菜先輩。でも、私だって裏門担当なんですから頼ってくれていいんですよ?」
「……うん」
「終わったら帰ってきますから」
滲んだ先輩の目尻を親指でこすって、手を離した。
校門に向かうと、びっくりするくらい散らかっていた。
「なんだこれ」
「文化祭だから」「お祭り騒ぎだから」
いつの間にか両脇に桔花と蓮乃がいて、ムスッとした顔で校門を見ていた。
話を聞くと、校門に文化祭の門を取り付けたときの木屑を花壇に入れられて、ご立腹らしい。
「というわけで、花壇を片付けつつ、これ以上荒らされないように見張ります」
「花菜もよろしく」
「りょーかい」
こういうとき、藤也がいれば何とかしてくれるけど、今はクラスに顔を出しているらしい。
その分、部長が走り回って掃除をしたり、花壇に踏み入らないように声をかけたりしていた。桔花と蓮乃はその補佐をしていたそうだ。
私はすでに荒された花壇を手入れして回る。
ぶつかられたり、ゴミを散らかされたりすると、桔花か蓮乃が飛んできて、
「ひどいです……っ」
と泣き真似をするとだいたい何とかなった。
私に任せると喧嘩になるに違いないから、その前に対応しろと部長に言われているらしい。
じゃあ私を手伝いに呼ぶなって思うけど、人手が足りないから仕方ない。
校門の反対側の花壇では、黄乃先輩が同じように掃除をしていて、文化祭実行委員の翠先輩が門を作りつつ、実行委員と園芸部が揉めないように見張っていた。
これ、私より世菜先輩の方がよかったんじゃないの?
先輩なら揉めてもやんわり納められそうだし。
そう思いつつゴミを集めたけど、ゴミ袋がなかった。スコップや箒もなかった。
……世菜先輩がいれば、絶対に用意しておいてくれるのに。
よくないな。先輩に甘えてばっかりで。
私が任されたことなんだから、ちゃんとやらなきゃ。
「そこの女子、危ないから避けて」
「は?」
顔を上げると、パイプを持った先輩が私の横を通ろうとしていた。
すかさず蓮乃が走ってきて、割って入った。
「ごめんなさーい、でもここ、通路じゃないんですよー」
「ちょっとくらいいだろ」
その先輩の足元で、苗が潰されていた。
さっき、私が周りのゴミを払って、水をやり直した苗だ。
「……なんで」
「花菜」
蓮乃が私の頭を撫でた。
藤也そっくりの雑な手つきだ。
……世菜先輩の大きくて優しい手とは、全然違う。
剣呑な雰囲気に気づいた部長が飛んできて、先輩を言いくるめて追い払った。
私は蓮乃と一緒に、三角コーンを運んできて花壇に人が立ち入らないように立てていった。
全部終わったあと、中庭に戻ると、世菜先輩が片付けをしていた。
「先輩」
「由紀さん、おつかれ。明日は裏門は来なくて大丈夫だよ。由紀さん教室の飾り付け担当って言ってたでしょう」
「……そうですけど」
「疲れてるみたいだし、早く帰りな。文化祭、楽しみにしてたんだし。俺も帰るから。お疲れさま」
世菜先輩は、ばーっと言って先に帰ってしまった。
なんだあれ。
でも、疲れていて追いかける元気はなかった。
***
クラスの準備も忙しいし、放課後も文化祭の準備と部活で手一杯で、校門の手伝いをすることが多かった。
私も世菜先輩も部活に行かないわけじゃないけど、自分たちの担当である裏門の水やりもそこそこに、クラスに戻ったり校門の手伝いに行ったりしないといけなくて、前みたいに二人でのんびり花の世話はできなかった。
……ていうか、先輩が変だ。
前みたいに、べったり甘えなくなった。
夏休みが終わってから文化祭準備が忙しくて、部活前に迎えに来なくなったのは仕方ないけど、中庭で待ち合わせることもできなくなっていた。
文化祭の二日前の放課後、先輩から『今日は裏門はこっちでやっておくよ』とだけメッセージが来て、裏門に行くと、先輩が一人で水やりをしていた。
「世菜先輩」
「由紀さん、おつかれさま」
「……はい。枯れ葉、集めておきますね」
「それも俺がやっておくから、校門の手伝いに行っておいで」
「でも」
「ここは元々俺が一人でやってたから大丈夫。向こうは人手不足だから、手伝ってきて」
「……わかりました」
と言いつつ、水やりをしていて振り向きもしない先輩を覗き込んだ。
先輩は一瞬困った顔をしてから、ゆっくり微笑む。
全然かわいくない顔だ。
「由紀さん」
「なんでしょうか、坂木先輩」
わざと冷たい声を出したら、先輩の顔がくしゃっと歪んだ。
私は両手を伸ばして、先輩の髪を撫でた。
ふわふわの髪に隠れて、目元が見えなくなる。
「行ってきますね、世菜先輩。でも、私だって裏門担当なんですから頼ってくれていいんですよ?」
「……うん」
「終わったら帰ってきますから」
滲んだ先輩の目尻を親指でこすって、手を離した。
校門に向かうと、びっくりするくらい散らかっていた。
「なんだこれ」
「文化祭だから」「お祭り騒ぎだから」
いつの間にか両脇に桔花と蓮乃がいて、ムスッとした顔で校門を見ていた。
話を聞くと、校門に文化祭の門を取り付けたときの木屑を花壇に入れられて、ご立腹らしい。
「というわけで、花壇を片付けつつ、これ以上荒らされないように見張ります」
「花菜もよろしく」
「りょーかい」
こういうとき、藤也がいれば何とかしてくれるけど、今はクラスに顔を出しているらしい。
その分、部長が走り回って掃除をしたり、花壇に踏み入らないように声をかけたりしていた。桔花と蓮乃はその補佐をしていたそうだ。
私はすでに荒された花壇を手入れして回る。
ぶつかられたり、ゴミを散らかされたりすると、桔花か蓮乃が飛んできて、
「ひどいです……っ」
と泣き真似をするとだいたい何とかなった。
私に任せると喧嘩になるに違いないから、その前に対応しろと部長に言われているらしい。
じゃあ私を手伝いに呼ぶなって思うけど、人手が足りないから仕方ない。
校門の反対側の花壇では、黄乃先輩が同じように掃除をしていて、文化祭実行委員の翠先輩が門を作りつつ、実行委員と園芸部が揉めないように見張っていた。
これ、私より世菜先輩の方がよかったんじゃないの?
先輩なら揉めてもやんわり納められそうだし。
そう思いつつゴミを集めたけど、ゴミ袋がなかった。スコップや箒もなかった。
……世菜先輩がいれば、絶対に用意しておいてくれるのに。
よくないな。先輩に甘えてばっかりで。
私が任されたことなんだから、ちゃんとやらなきゃ。
「そこの女子、危ないから避けて」
「は?」
顔を上げると、パイプを持った先輩が私の横を通ろうとしていた。
すかさず蓮乃が走ってきて、割って入った。
「ごめんなさーい、でもここ、通路じゃないんですよー」
「ちょっとくらいいだろ」
その先輩の足元で、苗が潰されていた。
さっき、私が周りのゴミを払って、水をやり直した苗だ。
「……なんで」
「花菜」
蓮乃が私の頭を撫でた。
藤也そっくりの雑な手つきだ。
……世菜先輩の大きくて優しい手とは、全然違う。
剣呑な雰囲気に気づいた部長が飛んできて、先輩を言いくるめて追い払った。
私は蓮乃と一緒に、三角コーンを運んできて花壇に人が立ち入らないように立てていった。
全部終わったあと、中庭に戻ると、世菜先輩が片付けをしていた。
「先輩」
「由紀さん、おつかれ。明日は裏門は来なくて大丈夫だよ。由紀さん教室の飾り付け担当って言ってたでしょう」
「……そうですけど」
「疲れてるみたいだし、早く帰りな。文化祭、楽しみにしてたんだし。俺も帰るから。お疲れさま」
世菜先輩は、ばーっと言って先に帰ってしまった。
なんだあれ。
でも、疲れていて追いかける元気はなかった。
***