並んで歩くなら、あなたと
26.あなたは私の……?
「そういえば、先輩はなんで私のこと避けてたんですか?」
駐輪場に向かいながら聞くと、世菜先輩は気まずそうな顔をした。
夕暮れ時の涼しい風が先輩の髪を揺らしている。
「えー……言いたくない」
「言わなくてもいいですけど、私が何かしていたなら悪いし、また同じことはしたくないです」
私がそう言うと、先輩は苦笑して目を細めた。
「真面目だな。まあ、そこが好きなんだけど。あのね、花菜ちゃんが須藤先輩には甘えるのに、俺には甘えてくれなかったからです」
「はあ?」
そうだっけ。私、めちゃくちゃ世菜先輩に甘えてたと思うんだけど。
首をかしげていたら、先輩がまた気まずそうな顔になった。
「ごめん、かっこ悪くて」
「そうじゃなくて、心当たりがないから」
「えっ」
先輩をよしよしするふりで、私が甘えたくてくっついていたこととか、手をつないでほしいと言えなくて先輩のせいにしてつないだこととか、先輩がくれたペットボトルを藤也に自慢したことなんかを説明した。
先輩は困った顔で目を逸らした。
「いや、それさあ……俺は、甘やかしてもらってたと思ってたから」
「まあ、そういうつもりもあったけど。じゃあ今、先輩が私のことを甘やかしてくださいよ。すっごい疲れてるから」
「うん。えっと、何してほしい?」
「先輩が私にされて嬉しいことをしてください」
世菜先輩は少し考えてから、照れた顔で私を覗き込んだ。
夕日のせいなのか、やけに顔が赤く見えた。
「いっぱいあるけど、ハグしたいな」
「いいですね。私もしたいし、されたいです」
駐輪場の隅で腕を広げると、先輩がふにゃっと笑って抱きしめてくれた。
「他に、何をしたいですか」
「……デートしたい」
「あ、それだ。明日明後日の自由時間教えてくださいよ」
先輩は名残惜しそうに手を離し、カバンから予定表を取り出した。
私も甘え足りないから、先輩にもたれかかって自分の予定表を出した。先輩から、土と草と汗の匂いがして、ついすり寄ってしまう。
「よかった、だいたい重なってますね」
「嬉しいけど、お友達や須藤さんたちと回らなくていいの?」
「友達と全然自由時間が重なってなくて。桔花と蓮乃は聞いてませんけど、いいんじゃないかな」
それから、文化祭のパンフレットを出してきた。
他のクラスや部活の出し物を見て、行きたい場所を選んでいく。
「先輩、お化け屋敷平気?」
「文化祭のくらいなら大丈夫」
「じゃあ夏にショッピングモールにできるやつ行きましょう」
「……それはちょっと」
「手、繋ぐから」
「めちゃくちゃかっこ悪くなるけど」
「楽しみにしてます」
先輩が嬉しそうに私を見ていて、それだけで楽しくて、笑ってしまうくらい私は浮かれていた。
でも、そろそろ空がオレンジから濃い青に変わっていく。
先輩の顔も見えづらくなってきた。
「そろそろ帰りましょうか」
「うん……でも、本当に俺で大丈夫?」
「なにが?」
「花菜ちゃん、理想が高いって言ってたから」
不安そうな声が降ってきた。
今更何を言っているんだろう。
先輩の顔に手を伸ばした瞬間、街灯がついて、明るい茶色の瞳がきらっと光った。
そこに映る私はこんなにも笑顔なんだから、先輩はそんなにしょんぼりした顔をしないでほしい。
「大丈夫です。先輩は気づいてないみたいですけど、だいたい合ってますよ」
「どこが?」
私の理想はかっこよくて頼れて、私だけを大事にしてくれる人だ。
世菜先輩はかっこいいというよりかわいいし、鈍くさくて情けないこともあるけど、いざというときには私を守ろうとしてくれるし、私を大事にしてくれる。
それに、花や植物を扱うときの丁寧な手つきと真剣な顔が、すごく好きだと思ったから。
先輩の髪を梳いて、瞳をまっすぐ覗き込んだ。
「先輩、私のこと大事にしてくれるじゃないですか」
「……うん」
「苗を植えるとき、すっごく丁寧じゃないですか」
「まあ、気をつけてるけど」
「それに、いざってときにかっこいいから、大丈夫」
先輩は手で顔を覆ってしまった。
どうしたの。
手を引っ張っても、外してくれない。
「先輩?」
「ごめん、キャパオーバー」
「えっ」
「その、あんまり花菜ちゃんに好かれてる自信がなかったから、あれこれ言ってくれて嬉しいけど……」
「もー、しょうがないなあ。好きですよ、世菜先輩。ほら、帰りましょうよ。あまり暗くなるとパパが迎えに来ちゃう。先輩、家まで送ってくれますか?」
「うん、送る」
自転車に跨がって、二人でたわいもない話をしながら家に向かった。
夕日はすっかり暮れていて、急がないと本当にパパから連絡が来そうだ。
家に着くと、先輩は笑顔で手を振った。
「じゃあ、また明日」
「はい、また。あ、文化祭の間、私ずっと浴衣なんですよ」
「あっ、そうだったね。ずっとか……」
「楽しみにしててくださいね」
「うん。あ、一個いい?」
先輩が照れたような顔で私を見た。
「先輩じゃなくて、名前で呼んでほしい」
「わかりました。世菜、また明日」
先輩……世菜はふにゃっと笑って自転車をこぎ出した。
でも、ちらちら私のほうに振り返るから、ふらついている。
「危ないから、前見て走って!」
「ごめん、気をつける」
駐輪場に向かいながら聞くと、世菜先輩は気まずそうな顔をした。
夕暮れ時の涼しい風が先輩の髪を揺らしている。
「えー……言いたくない」
「言わなくてもいいですけど、私が何かしていたなら悪いし、また同じことはしたくないです」
私がそう言うと、先輩は苦笑して目を細めた。
「真面目だな。まあ、そこが好きなんだけど。あのね、花菜ちゃんが須藤先輩には甘えるのに、俺には甘えてくれなかったからです」
「はあ?」
そうだっけ。私、めちゃくちゃ世菜先輩に甘えてたと思うんだけど。
首をかしげていたら、先輩がまた気まずそうな顔になった。
「ごめん、かっこ悪くて」
「そうじゃなくて、心当たりがないから」
「えっ」
先輩をよしよしするふりで、私が甘えたくてくっついていたこととか、手をつないでほしいと言えなくて先輩のせいにしてつないだこととか、先輩がくれたペットボトルを藤也に自慢したことなんかを説明した。
先輩は困った顔で目を逸らした。
「いや、それさあ……俺は、甘やかしてもらってたと思ってたから」
「まあ、そういうつもりもあったけど。じゃあ今、先輩が私のことを甘やかしてくださいよ。すっごい疲れてるから」
「うん。えっと、何してほしい?」
「先輩が私にされて嬉しいことをしてください」
世菜先輩は少し考えてから、照れた顔で私を覗き込んだ。
夕日のせいなのか、やけに顔が赤く見えた。
「いっぱいあるけど、ハグしたいな」
「いいですね。私もしたいし、されたいです」
駐輪場の隅で腕を広げると、先輩がふにゃっと笑って抱きしめてくれた。
「他に、何をしたいですか」
「……デートしたい」
「あ、それだ。明日明後日の自由時間教えてくださいよ」
先輩は名残惜しそうに手を離し、カバンから予定表を取り出した。
私も甘え足りないから、先輩にもたれかかって自分の予定表を出した。先輩から、土と草と汗の匂いがして、ついすり寄ってしまう。
「よかった、だいたい重なってますね」
「嬉しいけど、お友達や須藤さんたちと回らなくていいの?」
「友達と全然自由時間が重なってなくて。桔花と蓮乃は聞いてませんけど、いいんじゃないかな」
それから、文化祭のパンフレットを出してきた。
他のクラスや部活の出し物を見て、行きたい場所を選んでいく。
「先輩、お化け屋敷平気?」
「文化祭のくらいなら大丈夫」
「じゃあ夏にショッピングモールにできるやつ行きましょう」
「……それはちょっと」
「手、繋ぐから」
「めちゃくちゃかっこ悪くなるけど」
「楽しみにしてます」
先輩が嬉しそうに私を見ていて、それだけで楽しくて、笑ってしまうくらい私は浮かれていた。
でも、そろそろ空がオレンジから濃い青に変わっていく。
先輩の顔も見えづらくなってきた。
「そろそろ帰りましょうか」
「うん……でも、本当に俺で大丈夫?」
「なにが?」
「花菜ちゃん、理想が高いって言ってたから」
不安そうな声が降ってきた。
今更何を言っているんだろう。
先輩の顔に手を伸ばした瞬間、街灯がついて、明るい茶色の瞳がきらっと光った。
そこに映る私はこんなにも笑顔なんだから、先輩はそんなにしょんぼりした顔をしないでほしい。
「大丈夫です。先輩は気づいてないみたいですけど、だいたい合ってますよ」
「どこが?」
私の理想はかっこよくて頼れて、私だけを大事にしてくれる人だ。
世菜先輩はかっこいいというよりかわいいし、鈍くさくて情けないこともあるけど、いざというときには私を守ろうとしてくれるし、私を大事にしてくれる。
それに、花や植物を扱うときの丁寧な手つきと真剣な顔が、すごく好きだと思ったから。
先輩の髪を梳いて、瞳をまっすぐ覗き込んだ。
「先輩、私のこと大事にしてくれるじゃないですか」
「……うん」
「苗を植えるとき、すっごく丁寧じゃないですか」
「まあ、気をつけてるけど」
「それに、いざってときにかっこいいから、大丈夫」
先輩は手で顔を覆ってしまった。
どうしたの。
手を引っ張っても、外してくれない。
「先輩?」
「ごめん、キャパオーバー」
「えっ」
「その、あんまり花菜ちゃんに好かれてる自信がなかったから、あれこれ言ってくれて嬉しいけど……」
「もー、しょうがないなあ。好きですよ、世菜先輩。ほら、帰りましょうよ。あまり暗くなるとパパが迎えに来ちゃう。先輩、家まで送ってくれますか?」
「うん、送る」
自転車に跨がって、二人でたわいもない話をしながら家に向かった。
夕日はすっかり暮れていて、急がないと本当にパパから連絡が来そうだ。
家に着くと、先輩は笑顔で手を振った。
「じゃあ、また明日」
「はい、また。あ、文化祭の間、私ずっと浴衣なんですよ」
「あっ、そうだったね。ずっとか……」
「楽しみにしててくださいね」
「うん。あ、一個いい?」
先輩が照れたような顔で私を見た。
「先輩じゃなくて、名前で呼んでほしい」
「わかりました。世菜、また明日」
先輩……世菜はふにゃっと笑って自転車をこぎ出した。
でも、ちらちら私のほうに振り返るから、ふらついている。
「危ないから、前見て走って!」
「ごめん、気をつける」