並んで歩くなら、あなたと
 私の教室に戻ると、入り口に見慣れた背中が見えた。


「パパ、ママ!」

「おう、花菜、戻ったか」

「ちょうど今から受付をしようと思ってたの。おすすめの景品はある?」

「ある。あ、その前に……」


 パパとママに世菜を紹介しようとして、本人に確認していないことに気がついた。


「ねえ世菜、親に彼氏ですって紹介していい?」

「いいけど、それ親御さんの前で言っちゃダメじゃないかな」

「そうだね。あのね、パパ、パパ?」


 振り返ると、パパがすごい顔になっていた。


「はあ? 花菜に彼氏!? 早いだろ……って、なんか見たことあるな?」


 パパが首を傾げて世菜をじっと見た。

 世菜は困った顔で口を開きかけたけど、先にママが「ああ」と声を上げた。


「何年か前に職業体験で来てくれた子じゃないかな?」

「はい、坂木世菜と申します。えっと、お久しぶりです……」

「えっ、そうなの?」

「あ、思い出した。坂木さんのとこのだ」


 世菜は気まずそうに私を見て、パパはぱっと笑顔になり、またすぐ苦い顔になった。


「えっと、はい、そうです。由紀さんが言ってる『坂木』は祖父です」

「そうそう。こいつのじいさんが、花菜のじいさんの幼馴染みなんだよ。たまに須藤さんと、あと花菜のおばあちゃんの弟の美園さんと四人で飲んでるだろ」

「そうなんだ!?」

「それは僕は知りませんでしたが……ごめんね、花菜ちゃん。黙っていて。ちょっとタイミングを逃しちゃって」


 早く言ってよ! とは思ったけど、なんとなく腑に落ちた。


「世菜、パパに農作業を教わったことがあるの?」

「教わるってほどじゃない。中学の職業体験で一週間だけだから。でも、それだけだったけど、由紀さんが丁寧に教えてくれたのは覚えているよ。だから高校で園芸部に入ったんだ」

「だからか。世菜の苗を植えるときとか、脇芽を摘むときとか、手つきがパパに似ていたから、何でかなって思ってたんだ」


 そう言うと、世菜は照れた顔になって、パパはやっぱり苦い顔をした。


「……将来有望な婿殿ってことか? いやでも花菜に彼氏は早いだろ……」

「気が早いよ、パパ。とにかく、そういうことだから。射的していって?」

「するけどさあ」

藤乃(ふじの)さんが泣き言聞くって言ってた」

「なんだあいつ。言うけどさあ」


 パパはぼやいているけど、ママはニコッと笑った。


「じゃあ射的していきましょうか。花菜、今日は遅くなりそう?」

「ううん、今日はそんなに遅くならないよ。家でごはんを食べる」

「わかりました。坂木くんもまた。今度は家に上がっていってね」

「はい、ありがとうございます」


 ぶつくさ言うパパを、ママが笑顔で引っ張っていった。

 ……今度は?

 ママ、私が世菜に送ってもらっているのに気づいてたの!?

 ぽかんとする私に、世菜が顔を寄せた。


「ごめんね、言ってなくて」

「ううん、いいよ。でも、じゃあ私のこと知ってたの?」

「名前だけね。職業体験のときは行き帰りが行き違いだったから、顔はちゃんとは知らなかったんだ。こんなかわいい子だって知っていたら、中学のときに声をかけたんだけどね」


 ふにゃっと笑う世菜の顔を、私はまじまじと見つめた。


「……世菜、ときどきチャラくなるのはなんなの?」

「ご、ごめん。そんなつもりじゃないんだけど」

「いいけどさ。あ、射的しよう。パパに勝ってよ」

「怖いからやだよ」


 嫌がる世菜の背中を押して、教室に入る。

 射的のピストルを構えるパパの横に並んだ。


「パパ、あの一番上の取って」

「彼氏に取ってもらえ」

「取ってもらうくらいなら自分で取るよ」


 ピストルを構えて、一番上の的に狙いを定めた。

***

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