鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した

12.鬼同期と優しそうな顔

 長谷川と客先に行って、おいしいホッケを食べて会社に戻ったら、パソコンに付箋が貼り付けられていた。


「『戻られたら経理部までお願いします』……」

「どした?」

「葉山さんの呼び出しだ……怖いよー、行きたくないよー!!」

「いや、さっさと行けよ」

「俺も行くからさ」

「うわ、びっくりした」


 いい笑顔で口を挟んできたのは、丹沢先輩だった。

 手元には、私のパソコンに貼ってあったのと同じ付箋。つまり、この間の日帰り出張の精算でなにか間違っていたんだろう。

 よかった。経理部に呼び出される心当たりがありすぎて、どの件なのか不安だったんだ。


「付き合おうか?」

「だ、大丈夫だよ。丹沢先輩もいるし」


 そう言うと、長谷川はなぜか唇を尖らせた。

 なんでよ。


「悪いな長谷川。俺は葉山さんに会いに行かないといけないから」

「ていうか、丹沢先輩も葉山さんに呼び出されてるんですよね。さっさと行きましょう」


 笑顔でネクタイを締め直す先輩と一緒に、経理部へ向かった。

***

 用件は大したことなくて、私と丹沢先輩が申請していた乗車駅が違ったから、確認されただけだった。

 違ったのは、私と先輩で家から乗った路線が違ったからってだけで、葉山さんもわかってるから、本当にただの確認だった。


「呼び出すような形になってしまってごめんなさい。二人同時に話を聞きたかったけれど、立花さんがいらっしゃらなかったから」

「いえいえ、こちらこそ、お手数おかけしました。今度から但し書きつけます?」

「そうしてもらえると助かりますけど、手間でしたら申請の際にひと声かけていただいても」

「ぜひ、そうさせてもらいます」


 そこで、丹沢先輩がにこやかに割って入ってきた。

 先輩、葉山さんに会いに来る用事がほしいだけじゃないですか。

 突っ込むのも野暮なので、へらっと笑ってごまかしておく。


 営業部に戻って仕事に取りかかろうとしたら、長谷川が寄ってきた。


「経理部、大丈夫だった?」

「うん。交通費精算の確認だけだった。お騒がせしました」

「いいけどさ。さっきの打ち合わせの議事録ってどれくらいでできる?」

「そんなにかかんないよ。一時間くらい」

「わかった。すぐ確認したいから、できたら声かけてくれ」

「わかった」


 長谷川は自分の席に戻っていった。

 ……丹沢先輩は、なぜかまだ私の横に立ったまま、うんうんと何度か頷いていた。


「なにか……?」

「いや、長谷川くん、わかりやすいな」

「それ、紫くんも言ってました」

「で、どうなん?」

「なにがですか?」

 ニヤニヤしながら私を見ていた丹沢先輩が、不満そうに口をへの字にした。

「だからあ、長谷川くんとどうなのって話」

「……? どうもないですけど」

「マジかよ。飯行ったりとか、デートとか」

「や、ないですね」

「それは長谷川くんなんてありえない? それとも誘われたこともない?」

「どっちもです。考えたこともないですね」

「ウケる。長谷川くんかわいそ。あはは」


 何言ってるんだ。いや、ほんと何言ってるんだ。

 男女が並んでたら付き合うや合わないやって、中学生か。


「先輩、セクハラです」

「あはは、ごめんね。おじさんだからさ」

「あ、葉山さん」

「んあ!?」

「嘘です」

「このやろう……」

「葉山さんがいる前で言えないようなこと、私にも言わないでもらっていいですか?」

「ごめん」

「もー、尊敬ポイント下がりますよ」

「それはやだ。俺は後輩の女の子に尊敬される男でいたいんだ」


 丹沢先輩はやっと自分の席に戻っていった。

 私だって、新人のころからお世話になってる先輩を見下げたくないので、このまま尊敬できる先輩でいていただきたい。



 議事録を作って、長谷川と確認して、お客さんにも送っておく。

 メールチェックして、秦野ちゃんが送ってくれたマニュアルに赤入れして、夕方になったら戸部先輩から引き継ぎを受けて見送って、それから自分の仕事をして……。

 気づいたら定時をとっくに過ぎていた。


「おい、立花」

「長谷川、なあに」

「最近、帰り遅いこと多いだろ。適当に切り上げとけよ」

「……うん。もう帰る」


 なんで知ってんだって思ったけど、長谷川もいつも残ってたし、わりと一緒に帰ってたわ。

 丹沢先輩に「付き合ってんの?」なんて聞かれるのもやむなし……。

***

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