鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
 数日後。製造部の人が営業部に顔を出した。


「立花さん、今いいっすか?」

「はあい、いかがなさいました?」

「ちょおっと教えてほしいんですけど、先日依頼もらったサイズってこれで合ってます?」


 うちの会社は食品系の卸業をやっている。

 でも製造部も持っていて食品の配送に必要な発砲スチロールの箱を作っている。

 元はそっちが本業の会社だったらしいけど、気づけば運んだり中継ぎしたりするほうが儲かって、いつの間にかそっちがメインになった……ということらしい。


 ともかく、搬送時に使う箱のサイズについて相談して、製造部の人は戻っていった。

 仕事に戻ろうとしたら、ムスッとした長谷川がやってきた。手には湯気の立つマグカップを持っていて、甘い匂いが漂っている。


「……箱の話なら、俺でもよかっただろ」

「依頼したの私だからね」


 だって長谷川に声かけるの怖いじゃん、とはさすがに言わなかった。

 私だって、長谷川と私がいたら私に相談する。怖いからね!

 長谷川は「そうだけどさ」と呟いた。


「あ、立花。今日は早めに上がれよ」

「うん。十七時以降には話しかけないでほしい」

「はいはい、そうさせてもらいますよ」


 私が仕事に戻ると、長谷川も自分のデスクへ戻っていった。


「なんか、面倒見よくなったなあ」


 思わず呟いたら、戸部先輩が


「面倒見イイって言うか、過保護になったね」

「あーはい。たしかに……」


 つい長谷川の方をうかがったら、紫くんから資料を受け取っていた。


「これ、頼まれていた資料まとめときました」

「早かったな。助かる。ありがとう」

「いーえ、今後ともごひいきに」

「なんだそれ」


 二人とも笑って仕事をしていて、なんていうか、ちょっと前なら考えられなかった光景だ。

 職場の空気が良くなって、本当に助かる。



 その後、本当に十七時以降は話しかけられなかったから、無事に定時ちょっと過ぎには帰り支度ができた。

 パソコンを閉じてカバンを持ったら、空っぽのマグカップを片手に長谷川がやってきた。


「帰れ帰れ」

「ふふ、ありがと。お疲れさま。また明日ね」

「おう、また明日」


 そう言いつつ、長谷川は給湯室の前までついてきた。


「長谷川も最近遅いでしょ。早めに帰りなよ」


 なんとなくそう言ったら、長谷川が驚いたように目を丸くして、それからふっと柔らかく笑った。


「ありがと。そうする」


 ひらひら手を振って、その場を離れた。


 ……そういう顔もするんだなあ。

 最近、そんなことばっかり思ってる気がする。
< 30 / 64 >

この作品をシェア

pagetop