鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
私が落ち着かないまま座っている間に、先付が運ばれてきた。
ほうれん草のお浸しに、カズノコ、それから香ばしく焼かれたイカ。
長谷川が頷いて手を向けるので、私も頷いた。
「えっと、いただきます」
手を合わせて箸を手に取る。
……すごく、おいしかった。
その後も吸い物、お造り、焼き物と続いたけど、どれもこれも驚くほどおいしい。
焼き物が出てきたあたりで、ようやく長谷川が口を開いた。
「うまいだろ? ……落ち着いた?」
「……うん。ご迷惑をお掛けしました」
「で、何メソメソしてたんだ?」
長谷川はお肉をもしゃもしゃ食べている。
私の目の前でも同じお肉がじゅうっと音を立て、食欲を誘う香りを漂わせていた。
「……秦野ちゃんに、お弁当もらってたじゃん」
「昨日?」
「うん」
「もらったんじゃねえけど……」
「それで、えっと、やだった」
我ながら子供っぽい言い方をしてしまったと思う。長谷川の目が丸くなった。
「嫌だったのか?」
「……うん。秦野ちゃんのお弁当、褒めてたでしょ。それ、聞いたらすごく嫌だった」
長谷川は何度か瞬きをして、それから噛みしめるようにゆっくり微笑んだ。
「立花は、俺が秦野の作った弁当を褒めてたのが嫌だったのか。それってさ」
「私ね」
長谷川の言葉を遮る。
お肉を全部食べて、箸を置いた。
庭園から、花の香りを含んだ温かな風が吹き込んでくる。
「私、入社当時からあんたのこと性格きついモラハラ野郎だと思ってたんだよね」
「うん」
長谷川は面白そうに笑いながら頷いた。
お肉が載っていた皿が静かに下げられ、入れ替わるように煮物が運ばれてくる。
「でも、最近は丸くなったし、言い方も穏やかで、面倒見も良くてオカンだなあって感じてて」
「よく言ってたな、それ」
長谷川はそう言って煮物に箸を付けた。
私もいただくことにする。味がしっかり染みていておいしい。口の中にじんわりと温かさが広がって、気持ちまで穏やかになってくる。
「だから、秦野ちゃんに取られたような気分になったのかも。ごめんね、いい歳して子供みたいで」
「ウケる」
長谷川は煮物を食べながら、「んー」と小さく唸った。
「例えばだけど、紫が『俺も先輩たち見習って、自分で弁当作ったんで味見してください!』つって弁当持ってきたとしてさ、俺がそれを食って褒めたら、立花は嫌か?」
紫くんのモノマネ、めちゃくちゃ似ていた。
吹き出しそうになるのを堪えながら、少し考える。
でも、うん。
「それはたぶん、なんとも思わない。長谷川、ずいぶん面倒見が良くなったなって、むしろ嬉しいんじゃないかな」
「でも、秦野だと嫌なんだな。それってさ、そういうことなんじゃねえの」
「そういう……?」
「立花が鈍いってのは丹沢さんから聞いてたけど、本当だな」
「えっ」
「俺も愚痴を聞かされてたから。新人のとき。まあ、牽制もあったかもだけど」
……それを、私はどんな顔をして聞けばいいのさ。
どう反応していいのか分からなくて、黙々と煮物を食べる。
「立花、その煮物、うまい?」
「うん。すごくおいしい」
顔を上げると、長谷川と目が合った。
すごく優しい顔で私を見ていた。
料理を教えてくれたときと同じ顔だった。
ほうれん草のお浸しに、カズノコ、それから香ばしく焼かれたイカ。
長谷川が頷いて手を向けるので、私も頷いた。
「えっと、いただきます」
手を合わせて箸を手に取る。
……すごく、おいしかった。
その後も吸い物、お造り、焼き物と続いたけど、どれもこれも驚くほどおいしい。
焼き物が出てきたあたりで、ようやく長谷川が口を開いた。
「うまいだろ? ……落ち着いた?」
「……うん。ご迷惑をお掛けしました」
「で、何メソメソしてたんだ?」
長谷川はお肉をもしゃもしゃ食べている。
私の目の前でも同じお肉がじゅうっと音を立て、食欲を誘う香りを漂わせていた。
「……秦野ちゃんに、お弁当もらってたじゃん」
「昨日?」
「うん」
「もらったんじゃねえけど……」
「それで、えっと、やだった」
我ながら子供っぽい言い方をしてしまったと思う。長谷川の目が丸くなった。
「嫌だったのか?」
「……うん。秦野ちゃんのお弁当、褒めてたでしょ。それ、聞いたらすごく嫌だった」
長谷川は何度か瞬きをして、それから噛みしめるようにゆっくり微笑んだ。
「立花は、俺が秦野の作った弁当を褒めてたのが嫌だったのか。それってさ」
「私ね」
長谷川の言葉を遮る。
お肉を全部食べて、箸を置いた。
庭園から、花の香りを含んだ温かな風が吹き込んでくる。
「私、入社当時からあんたのこと性格きついモラハラ野郎だと思ってたんだよね」
「うん」
長谷川は面白そうに笑いながら頷いた。
お肉が載っていた皿が静かに下げられ、入れ替わるように煮物が運ばれてくる。
「でも、最近は丸くなったし、言い方も穏やかで、面倒見も良くてオカンだなあって感じてて」
「よく言ってたな、それ」
長谷川はそう言って煮物に箸を付けた。
私もいただくことにする。味がしっかり染みていておいしい。口の中にじんわりと温かさが広がって、気持ちまで穏やかになってくる。
「だから、秦野ちゃんに取られたような気分になったのかも。ごめんね、いい歳して子供みたいで」
「ウケる」
長谷川は煮物を食べながら、「んー」と小さく唸った。
「例えばだけど、紫が『俺も先輩たち見習って、自分で弁当作ったんで味見してください!』つって弁当持ってきたとしてさ、俺がそれを食って褒めたら、立花は嫌か?」
紫くんのモノマネ、めちゃくちゃ似ていた。
吹き出しそうになるのを堪えながら、少し考える。
でも、うん。
「それはたぶん、なんとも思わない。長谷川、ずいぶん面倒見が良くなったなって、むしろ嬉しいんじゃないかな」
「でも、秦野だと嫌なんだな。それってさ、そういうことなんじゃねえの」
「そういう……?」
「立花が鈍いってのは丹沢さんから聞いてたけど、本当だな」
「えっ」
「俺も愚痴を聞かされてたから。新人のとき。まあ、牽制もあったかもだけど」
……それを、私はどんな顔をして聞けばいいのさ。
どう反応していいのか分からなくて、黙々と煮物を食べる。
「立花、その煮物、うまい?」
「うん。すごくおいしい」
顔を上げると、長谷川と目が合った。
すごく優しい顔で私を見ていた。
料理を教えてくれたときと同じ顔だった。