鬼同期が家だとオカンだったし、その後スパダリに進化した
「遅くなっちゃったなあ」

「そうだな。スーパー閉まってる」

「酢の物の素、買い損ねた……」

「また明日来ればいいじゃん。休みだし」

「そうだねえ。一緒にキュウリとワカメも買おう。他におすすめある?」

「この時期ならミョウガもありだな」

「天才じゃん」


 スーパーを過ぎて、コンビニも過ぎて、もうすぐマンションに着く。

 疲れたし、さっさと帰って寝てしまいたい気持ちと、もう少しだけ手をつないでいたい気持ちが入り混じって、うまく言葉が出てこない。


「そっちは秦野の弁当が嫌だったって言ったけどさ」


 マンションが見えてくる直前、紫月が前を向いたまま口を開いた。


「美颯に、紫がやたら懐いてるのも、丹沢さんがわかったような顔するのも、俺は面白くなかった」

「……そうなんだ?」

「そうだよ」


 紫月は一瞬だけ私を見た。

 唇が尖っていて、拗ねた子供みたいで、はじめてこの男をかわいいと思った。



 マンションに着いたら、それぞれ郵便受けを確認してチラシを捨てて、また当たり前みたいに手をつないだまま部屋の前まで行った。

 いつもは私が「またねー」とか言って紫月が部屋に入るのを見送ってから自分の部屋に入るのに、今日は彼は私の部屋の前までついてきた。


「今日は急に連れてって悪かった」

「ううん、むしろありがとう。おいしかったし、嬉しかった」

「今度またグランピング行こう」

「行こう。次はビール持ってく」

「俺は料理の支度して行く。……おやすみ美颯。明日は休みだし、ゆっくり休んでくれ」

「うん。紫月もね」


 つないだままの手がギュッと握られて、それからゆっくりと離れた。

 紫月は何か言いたそうに口を開いて、それでも何も言わない。

 じっと私を見る瞳がちょっと垂れた。

 離れた指先が、やけにひんやりする。


「紫月」

「ん」

「おやすみ」

「……おやすみ、美颯」


 紫月がホッとしたように表情を緩めたのを確認してから、私は部屋に入る。少しして、足音と隣の部屋の扉が閉まる音がやけに耳に響いた。

 手はもう離れているのに、さっきの温度がまだ残っている気がして、理由もなく頬がゆるんだ。
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