離れた後の恋の仕方
週末の土曜になり、今は夕方で三斗のお店に向かう為に準備を始め、水瀬と姫川も現地で集合で、後は仁で、最近付き合いが悪いし、どうしたものか。

編集長3人組とは仕事抜きの話もするけど、結局は本のことになるし、話しても飽きないんだよね。

自分の愛車の鍵をポケットに入れ、後はスマホと財布をミニバックに入れて部屋を出て階段を降りると親父とバッタリと会った。

「ふらふらしてないで、この間の相手にお詫びの連絡はしたのか」
「とっくにしたし、いちいち俺の恋愛を監視すんなよ」
「監視されないように相手を決めればいい話だ」
「もう10代のガキじゃないし、これから気を休める店に行くからほっとけよ」
「……まだあの店に行っているのか?」
「あんたに関係ない」

俺は親父の隣を横切り、玄関で口を履いて出て行った。

愛車の鍵で運転席のドアを解錠して乗り込み、三斗が経営する【Bar Jewelrys】へ向かい、時間制の駐車場に愛車を停めて店の鉄の扉を開けると、カクテルのシェイカーを振る三斗が俺の顔を見てギョッとして、手を止めた。

「本当に姉ちゃんにぶたれたんだ」
「格好いい顔が台無しでしょ?」
「はぁ?もう一度姉ちゃんにぶたれてこい」

三斗がフンっと言い、またシェイカーを振る。

俺はカウンター席に座って三斗の様子を見ていると、グラスに注がれたカクテルの色が林檎の様な赤で、店の光に当たると綺麗だ。

三斗のカクテルを受け取りに来た客は喜びながら席に戻っていき、三斗が俺の所に来る。

「今日は車で来ているから、アルコールは無しで。つまみは水瀬達が来てからにするよ」
「分かった。烏龍の業務用サイズがあるから、それを使う」

三斗が絡んで取り出したのは確かに2リットル以上のデカいサイズの烏龍が入ったボトルで、何処で買うんだ。

「姉ちゃん、お土産を食べてたよ」
「良かった。三斗のおかげで一美に会えたし、ありがとう」

三斗が言う“姉ちゃん”=一美の事で、仁と三斗を含めて“荒木3姉弟”という家族構成なのは一美から聞いた時は驚いたな。

三斗が1番大人ぽい風貌だけど末っ子で、真ん中の仁は一美と三斗のテンションの真逆だし、仁に初めて出会った時は本人が高校生だったし、三斗も可愛い学生時代だったなと懐かしく思う。

鉄の扉が開いて姫川が入って来て俺の左側に座り、3人で話していると水瀬が来て、俺の右側に座った。

「いつもの飲み物で宜しいですか?」
「ああ。それと魚系のつまみ」
「俺も姫川と同じつまみで、カクテルを」
「高坂さんはどうする?」
「車だし、つまみは肉系でお勧めのものをお願い」
「任せて」

三斗は水瀬達がいる時は高坂さんで呼んで、そうじゃない時は仁と同じで下の名前で呼ぶことを使い分けている。

三斗が手際良く飲み物とつまみを用意し、其々グラスをぶつけて飲み始めた。

「今度の部数会議で経理課のおっさんがまた言って来るから、揉め事は長引かせないでね」
「あの性格はどうにかなんねぇの?」
「毎回姫川とのやり取りが長いんだから、早く終わって欲しいよ」

姫川と水瀬が愚痴るようにほんと経理課の部長であるおっさんは部数会議でネチネチ言ってきて、毎回姫川と言い合いになるし、会議室の空気もピリッとしたり、うんざりするもんな。

姫川が言い返したくなるのは分かるし、俺が社長になったら問答無用で期待する経理課の若手に交代させるし、何とか“休刊”を阻止出来る迄は部数会議で揉め事を止めて欲しい。

「そういや、荒木は来ねえのか?」
「最近、忙しそうだよね。って言っても、いつも見ないのが当たり前というか、“ツチノコ”は健在だね」
「仁は取材とかで忙しいし、スポーツ部の時間は他の部署と違うからなぁ」

スポーツ部は試合があれば日中から遅くまで不在になるし、定時という設定がない部署だし、仁は入社してからも取材で不在がちで滅多に四つ葉で見かける事が少なくて、俺はそれを都市伝説的な“ツチノコ”ぽく扱っていたら、いつの間にか定着していた。

本人に伝わった時は『迷惑』のひと言で終わって、それでも四つ葉の女性の社員達には仁の人気が凄いよな。

「でも仁がいないといつもの雰囲気というか、物足りないよね」
「確かに。ベロベロになったらお世話をしてくれるの、仁だし」
「高坂が1番酔って迷惑かけてるな」

姫川が泡いっぱいの飲み物をグイッと飲み、それを言われるとな。

「仁だから甘えられるんだよ」

俺も烏龍が入ったグラスをグイッと飲み、ふぅとする。

「仁を誘ってみようか」

俺はスマホを取り出して仁の連絡先を表示して発信すると、呼び出し音がずっと続き、姫川と水瀬は飲みながら俺の様子を見ていると、ようやく繋がった。

『何?』
「電話に出るの遅いぞ〜」

お、少しご機嫌斜めか?

「水瀬達と飲んー」
『行かない』

仁から電話をガチャ切りにされ、うう、稔、悲しい。と両手で顔を覆ってシクシクすると、三斗が笑っている。

「その様子だと振られたんだ」

三斗の言葉に手をパッと離す。

「行かないだって。しかも凄くご機嫌斜めだった…」
「高坂の誘いを断るなんて、珍しいな」
「そうだね。いつもなら俺達の誘いも来るのに、何か大事な用事があるんじゃない?」
「まぁ、それなら仕方ないんじゃない」

水瀬の言葉に三斗がシェイカーを振るけど、何か意味有りげな感じだなと思い、烏龍を飲み干す。

そこからまた3人で四つ葉の話や姫川のお勧めの街歩きの場所の話で盛り上がっていると、Barの電話機が鳴り、三斗が受話器を取ってカウンターの奥側に行って話をし始めた。

「分かった。すぐ行くから、姉ちゃんは車の準備して途中で合流をしよう。うん、一旦切るね」

姉ちゃんって事は、電話を掛けてきたのは一美か?

三斗が通話を終えて俺達の所に来るけど、表情が暗い。

「仁が…兄ちゃんが風呂場で倒れたから、店を閉めても良い?」

普段俺達の前では仁って言うけど、兄ちゃん呼びは末っ子モードになる時だ。

「俺達の事はいいから、仁の所にすぐ行きな」
「うん。もし辛そうなら、病院に行ってね」
「ちゃんと飯を食えって伝えろ」
「うん。今日の代金は良いから、また来てよ」

俺達が其々の思いを伝え、三斗は他の客にも事情を話して店を閉店し、三斗は駅へと向かっていった。
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