離れた後の恋の仕方
荒木と気まずいままの雰囲気になって2か月が過ぎ、その間は書店でアルバイトしたり本を作るサークルの準備の為に奔走したりと過ごし、同じ講義室になる時はわざと時間をギリギリにして講義室に入ったり、1番手で講義室を出たりする。

廊下を歩いていると窓からはテニスコートが見えて、数人の男女が楽しそうにテニスをしていた。

そういや最近テニスサークルの方に顔を出していないな…、行けば荒木と佐々木がいるだろうし、2か月前のことがフラッシュバックして顔を左右に振る。

「稔」

背後から声を掛けられ振り向くとテニスラケットのバックを背負った祐一がいて、俺の隣に来て一緒に外の景色を眺める。

「最近、テニスの方は?」
「ん〜、バイトと本の方で忙しい」
「この後さ、良かったら俺と打ち込みしない?溜まった物を吐き出さないと毒だよ」
「バレた?」
「そんな顔は誰だって分かるよ」
「そうかなぁ。ただ格好いい顔でしょ?」
「1回、全力でボールを当てるよ」
「それは勘弁。でもありがと。行くよ」

俺は普通な顔をしていたと思っていたけど、祐一には中身の部分が透けて見えていたか。

祐一と久しぶりにテニスサークルの部室に行き、更衣室のロッカーにしまっていたユニフォームに着替え、ラケットを祐一から借りてコートに入る。

握ったラケットの感触に打てるかな…、祐一からのサーブにくらいついて打ち返し、俺も祐一も試合という形よりもがむしゃらにボールを拾っては打ち返しを繰り返した。

「橘君!頑張って!」
「高坂も拾い上げて凄いぞ!」

いつの間にかコートの中や外でギャラリーが増えていて、祐一と顔を見合わせてニヤッとし、息を整えて俺がサーブを打つと祐一も打ち返し、ラリーが続き、歓声も凄いことになっていた。

「2人とも凄い〜」
「公式試合に出ても通用するんじゃない?」

俺はそこまでは試合に出たいとかでは無いし、こうした打ち合いが好きなんだよね。

祐一も俺も額から大粒の汗が頬を伝い、息も荒く、俺は次で決めようと大きく深呼吸をすると祐一の表情がギッと真剣になり、構えもさっきよりも警戒を持っていて、俺もボールを数回コートにはねさせて手から放って大きくラケットを振る。

打たれたそのボールは祐一のいる陣地の得点がギリギリ入る線の所に鋭く落ち、祐一は一歩も動けず天を仰いだ。

テニスコートには歓声と拍手が大きく鳴り響き、俺は息を整えてとぼとぼと祐一の所に行き、ラケットは左手に持って右手を祐一に差し出す。

「打ち合うのも良いだろ?」
「悩む事があったら祐一と一緒に打ち合うのも良いなって思った。ありがとう」
「いつでも付き合うよ」

2人で右手をガシッと握り合って、祐一は眼鏡を外して手でパタパタと仰ぎ、俺も熱く火照った顔をユニフォームの腕の部分で拭おうとしたらサークルの女の子たちが駆け寄ってきた。

「橘君、使って」
「高坂君も凄くかっこよかったよ」

女の子たちがタオルを差し出すと、その子たちの少しだけ離れた距離に荒木がタオルを持っているのが見えたので、俺は女の子たちの横を通り過ぎてすたすと荒木の所に行き、目の前に立つ。

「タオル、使っても良い?」
「うん、どうぞ」

俺はニコッと微笑むと、荒木もタオルを俺に差し出してニコッと微笑む。

「凄いラリーだったね」
「祐一と打ち合って、すげぇ楽しかった」

タオルを受け取って汗を拭いて、ふぅっと息を整える。

「次は佐々木と山崎の打ち合いだぞ」

サークルの部長が活動の再開を仕切り出し、俺と荒木はテニスコートを出ようとすると、荒木の背後からテニスボールがこっちに向かって来るのが見え、咄嗟に荒木の腕を取って俺の腕の中に包み、ボールは俺の左頬に思いっきりヒットした。

「稔!」
「大丈夫だよ」

祐一が俺の所に来るけど顔が相当焦っていて、どうしたんだよ。

「救護室に行って手当てをしなきゃ」
「そんなに?!」
「えっと、あの…」

俺の腕の中で荒木の声が聞こえ、おっと、俺はパッと腕の力を緩めたら、荒木が顔を見上げ、ギョッとした顔で俺を見る。

「血が、血が出ているよ」
「そうなの?」
「救護室に行こうよ」
「大丈夫だって」

俺はそこまで行かなくてもいいと思って荒木の申し出を断ると、荒木は左手を思いっきり振って俺の後頭部をビシッと叩いた。

「痛ってぇ」
「良いから救護室に行くわよ!橘君は高坂君の荷物を更衣室から持ってきて」
「直ぐ持ってくる」
「ほら!」

荒木は俺の右腕をガシッと右手で掴んですたすとテニスコートを出て行き、2人で校舎内の救護室に向かった。
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