離れた後の恋の仕方
◇一人目のライバル(幼馴染み)
【VS恋敵のライバルが“凄く大切な人”の幼馴染みの場合】

仁が風呂場でぶっ倒れてから2週間が過ぎ、四つ葉出版社の専務室では橘にお中元のお店のリストアップを頼み、俺は送り先の住所の一覧表を印刷する。

いつもなら祐一が一手に引き受けているけどまだ療養中で、今年は俺と橘の2人でお中元の用意をすることになったのだ。

親父の名前で送るのに、たまには親父もやってみろよと心の中で悪態をつく。

「お店のリストアップが終わったら俺と一緒に買い出しで、郵送の手配もそこでするよ」
「かしこまりました。今回は洋菓子と和菓子系を併せて5軒のお店です」
「ありがとう。祐一がこれを1人でやっていたなんて、感謝だな」
「叔父様から『もう慣れた』と聞いたことがあります」
「そうなの?」
「ええ。高坂専務が高坂社長に内緒で叔父様のご家族宛てに取引先様よりも豪華なお中元等を贈って下さった事も存じてましたよ」
「え〜、バレてたんだ」

祐一は大学時代から俺と一緒にいて、四つ葉出版社にも俺が強引に誘って入社させたし、俺の専属秘書になってからは俺の無茶振りに応えてくれているから、せめてお中元とかお歳暮は取引先よりも豪華な物を親父や祐一に内緒で贈っているんだけど、祐一も知っていたのか。

「祐一には大学時代から一緒だし、贈りたいんだよね。お店が混雑する前に行こうか」
「はい」

出掛ける準備をして専務室を出ると、可愛い部下の宝条さんがノートパソコンを抱えていたので、聞けば仁の宿題をこれで完成させるって聞き、あいつの原稿のチェックってマジで俺よりも厳しいからな。

田所なんて最初はかなりメソメソしていたし、仁の原稿チェックに泣いた奴は何人いたんだ?後は俺の後任で編集長になった時は、年上の編集部の奴らにも容赦なく赤ペンを走らせてかなり険悪な空気になって、俺が両者の言い分を聞いて間に入ったけど、全部仁の言い分が正しかった。

仁にもう少し人との関わり方を考えなって言ってるけど、『誤字脱字に年齢は関係ないし、届けたい言葉がこんなのは一文字も載せたくない』って顔をぷいっと横にしていたっけ。

“Scoperta”に初掲載されたメンバーには俺とサシで昼ごはんや飲みに誘って英気を養うようにしているけど、宝条さんはどれくらいの期間で載れるか楽しみで、とびっきり美味しいお店を探しておこうかな。

橘と四つ葉のビルを出て歩いて藍山駅に向かい、電車でS駅に向かい、橘がリストアップしてくれたお店を回りながらお中元の手配をする。

「次の和菓子系のお店で最後です」
「ようやくかぁ~」

俺は腕を上に伸ばしてふぅと息を吐き、最後のお店となる1軒の和菓子のお店に入った。

白い割烹着を来た男女の店員が俺達に気づき、その1人の男性が俺を見てハッとするけど、俺も同じタイミングで体がビクッとする。

「いらっしゃいませ」
「どうも」

お互いぎこちなく挨拶をし、俺は店内の商品棚を見て回り、お中元に送る和菓子を選び始める。

「久しぶり」

男性が俺の隣に来たので俺もそいつの方に顔を向けると、白い割烹着の左胸辺りに『佐々木』という名前が緑色の刺繍糸で縫われているのが見えた。

「いつぶり?」
「大学を卒業した以来」
「そんなに経つんだ。その割烹着、似合っている」
「稔もスーツで一丁前に女性と来店かよ」
「祐一の姪っ子」
「そうなんだ。橘と相変わらず仲が良いんだ」
「まぁね。ね、お中元で取引先の社長と奥さまが年齢が◯◯代なんだけど、発送を8月上旬にしたいから佐々木のお勧めで良いのってある?」

俺はお中元の送り主の情報を佐々木に伝え、良い感じの物を選んでもらおうとした。

「その時期なら水羊羹か柑橘類の葛切りを販売予定だから、どうしたい?」
「うーん、柑橘類にするよ。ありがとね」
「こっちの席で手続きをするから、座って」

佐々木に案内されて手続き用の席に座り、伝票に住所と宛名と一筆箋を書いてお中元の手配を完了させた。

「そうだ、祐一の家族宛にもとびっきり美味しい和菓子を贈りたいから、果実系の物ってある?」
「ゼリー系で苺、蜜柑、桃、林檎なら」
「色々あって迷うなぁ。ねぇ、橘はどれが食べたい?」
「え?私ですか?」
「そ。いつも頑張っているし、祐一と一緒に食べてよ」

俺がニコニコとしながら提案すると、橘は少しだけ驚いた表情をする。

「………ありがとうございます。では桃が食べたいです」
「喜んで。祐一とその家族には苺と蜜柑を2個づつで」
「分かった。こっちの伝票に記入をお願い」

俺は橘の分を含めたお中元を手続きし、後はー…、林檎のゼリーを一美に贈ろうかな?

「稔は今夜は時間ある?折角会えたから、久しぶりに飲もうよ」
「良いけど、もつ煮の上手い店で良い?」
「良いよ。これ、俺の連絡先」

佐々木が未使用の伝票を裏返してペンでサラサラと連絡先を書いて、スッと俺に渡した。

「ありがと。俺の名刺を渡すから、後でメッセージを送って時間を相談しよう」
「ああ。また後で」
「おう」

俺は和菓子の店を出て、四つ葉へ戻っていった。
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