離れた後の恋の仕方
南◯駅に着いて荒木の実家に向かっていきながら、話題はお互いの家族構成についてだけど、俺はひとりっ子で荒木は3姉弟で羨ましい。

「弟が2人って良いな」
「そう?時々妹かお姉ちゃんが欲しいわよ。男女だから服の話も出来ないし」
「そっかぁ、そういう考えもあるか」
「そうよ。家にお母さんがいない時は末っ子の相手だし、来年大学2年生になったら後輩の女の子をうんと可愛いがるわ」

荒木が少し先の未来の話を楽しそうにしていて、俺も後輩が出来たらどうなるんだろ。飲みに行くのは決まりで、本の趣味が合えばサークルに勧誘してみようかな。

荒木が1軒の家の前で立ち止まって、俺は看板を見上げると『荒木不動産』と達筆な筆文字で書かれていて、荒木がドアを開けて一緒に入ると、白シャツにグレーのベストを着た男性と目が合ったので、俺は頭を下げる。

「お父さん、ただいま」
「おかえり。その方は?」
「はじめまして、荒木さんと同じ大学に通う1年の高坂稔です」

この男性は荒木のお父さんなんだ。物静かだけど芯がある印象だし、緊張する。

「今日ね、佐々木君が仁の家庭教師が出来なくて、高坂君が代理で来てくれたの」
「そうか。もう少しで帰って来ると思うから、奥のリビングで見てもらいなさい」
「うん。高坂君、こっち」
「お邪魔します」

俺はもう一度荒木のお父さんに頭を下げて、不動産屋の奥のスペースのドアに通され、そこにはリビングとキッチンがあった。

「このリビングの机で仁や三斗の課題を見ているんだ」
「成る程ね。本人が来たら、教科書とノートを見せてもらって、進め方を聞くよ」
「うん。お茶を用意するから、高坂君はこの椅子でね」
「分かった。ありがとう」

指定された椅子に座り、荷物は足元において、荒木がキッチンでお茶の準備をしている後ろ姿をみて、良いな、俺の家よりも温かみのある雰囲気が伝わる内装だし、おれんちなんてお手伝いの林さんがお茶を用意するもんな。

林さんのお茶も熱々で美味しいけど、それは親が淹れた物じゃなくて、何処か違うと感じる時がある。

荒木が俺の方に振り返り、紅茶と緑茶の茶葉が入った缶を見せた。

「高坂君はどっちが好み?」
「そうだなぁ、その緑茶が良いな」
「緑茶ね。仁が帰宅する前にお茶菓子も用意して、一緒に淹れるね」
「ありがとう。俺も出来ることはある?」
「今日は私がお願いしたから、高坂君は座ってて」
「今日はって事は、次は俺が荒木を誘っても良いって事?」
「え?!」

荒木の顔が赤くなり、その反応が可愛いとニンマリする。

「じゃあ、いつも荒木がカフェラテを飲んでいるからさ、美味しいカフェラテのお店を探すから一緒に行こうよ」

話の流れで誘ってみたけど、どうかな?

「とびっきり美味しいカフェラテをリクエストして良いかしら?」
「喜んで」

顔には出さないけど、心の中ではやった!!と叫びまくっているし、誘った俺ってナイスじゃん。

するとリビングのドアが開いて、エナメル素材のスポーツバックを肩にかけて学ランを着た男子が入って来て、髪型はスポーツをしているのか短髪で、目は漆黒の瞳、身長も俺くらいかな?もしかして荒木の真ん中の弟さん?

「ただいま」
「おかえりなさい。今回も佐々木君が家庭教師が駄目になったから、高坂君が代理で来たわよ」
「はじめまして、高坂稔です」
「荒木仁」

仁君はすたすとこっちに来て対面の椅子の足元にエナメルバックをドサっと置き、学ランのボタンをプチプチと3つ外してふぅと息を吐き、荒木の側に行く。

「どれを運べば良い?」
「お茶菓子が冷蔵庫にあるから、それを出して」
「分かった」

仁君は冷蔵庫を開けて箱を取り出し、食器棚からお皿を取り出して箱を開けて中身をドサドサと入れて、そしてお皿を持ってこっちに来て俺の前にそっと置いて、本人は対面の席に座った。

「代理で来たから知りたいんだけど、普段はどんな風に課題に取り組んでいるの?」
「数学は本屋で売っている参考書よりもドリル形式で計算を解くことに慣れるのと、佐々木さんは宿題のチェックをする」
「成る程ね。式の使い方で何処で躓く?教科書やノートを見ても良い?」
「良いけど」

仁君がエナメルバックから教科書とノートを取り出して、俺は見せてもらって懐かしいなぁ。高校生だとこの辺りの勉強って、苦戦する気持ちは超分かる。

パラパラと教科書を捲ると、きちんと公式の式には蛍光ペンで囲って目立つようにしているし、ノートも苦手な所の復習として取り組んでいるのが分かるし、疑問に思った問題の箇所もマーカーで引いて赤字で正しく解いていて、真面目に取り組んでいたのが分かった。

「きちんと疑問の所を解こうとしているけど、基礎の公式を直ぐ思い出さなきゃ。使ってない紙に問題を書くから、解いて見て。少しでも解答に迷った問題は三角のマークを付けて」
「分かった」

俺は教科書を元に類似問題を書き、スマホで問題を入力して解答を確認して、よし、仁君に問題用紙を渡した。

「学校のテストの時間は?」
「数学は1時間」
「じゃあ、40分で。はい、スタ〜ト」

俺はスマホのタイマーを使って時間を計った。

「え、ちょっとー…」
「ほら、もう3分経ったから後37分しかないよ」
「………まだ37分ある」

仁君は最初は動揺していたけど直ぐバックから鉛筆を取り出して、俺が作った問題を解き始めた。
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