離れた後の恋の仕方
仁君が俺が書いた類似問題を解き始め、スマホのタイマーを見ると残り19分か。俺は仁君のノートを読みながら時々様子を見て、また視線をノートに戻す。

荒木は俺の左側の空席に座って不動産関係の資格の本を読み始め、リビングはノートを捲る音と仁君が必死に問題を解く鉛筆の音しか聞こえないけど、俺に弟がいたらこうして宿題の面倒を見れたんだろうな。

ひとりっ子だと自分でやる力は養えるけど、相手に教えたり関わり方って同級生か年上が多いから、こういう年下との関わり方は荒木が言ったように2年生になったらいっぱい後輩を可愛いがろう。

リビングのドアが開いて、ブレザーを着た男子が入って来て、仁君よりも背は少し小さいけど髪は長髪を後ろ1つに束ねていて、手にはスーパーの袋を3つも持っていた。

「あれ?佐々木の兄ちゃんは?」
「今回も来れないから、同じ大学に通う1年の高坂君が仁の臨時家庭教師に立候補してくれたの。高坂君、末っ子のミトよ」
「はじめまして、高坂です」

荒木がブレザーの男子の事を末っ子だと紹介し、俺はノートをパタンと閉じて挨拶した。

「荒木三斗です。姉ちゃん、頼まれた食材を買ってきたけど」
「ありがと〜。凄く助かったわ」

荒木は席を立って三斗君とキッチンで冷蔵庫に食材を入れて、何か作業をし始めた。

「終わった」

仁君は鉛筆を置いて用紙を俺に差し出し、俺も受け取ってバックからペンケースを取り出して赤ペンを持って採点を始めた。

うーん、文章問題は平気で、やっぱ計算式の項目が三角のマークがいくつかあるし、佐々木って何処をどう教えているんだ?

赤ペンを走らせて結果は4割の正解率で、これはマズイな。中学の成績もかなり苦戦していたと思うし、この先大学に進むなら数学はきちんと取っておかないと受験前にもっと苦しむぞ。

「部活と勉強の時間はどういう風に調整している?」
「今日みたいに練習が無ければ即帰宅して勉強、練習がある日は勉強しない」
「成る程ね。どの日でも復習の時間を最低でも30分は取って、授業を聞いて分からない所は先生に聞く癖を付けて、帰宅したら計算や問題を解くドリルやネットで問題用紙のダウンロードが出来るページを活用してご覧。で、本屋に高校生向けの数学の参考書を選んで1冊は手元に置こう。まぁ教科書が1番の参考書だけど、解説とか注意事項は本屋の参考書が良いよ」
「分かった」

俺は一気に仁君にアドバイスをすると、本人の反応があっさりだなと思っていたら、荒木と三斗君が振り返った。

「ちょっと!少しは分かった以外に言えないの?」
「兄ちゃん、流石に言葉が少なすぎるよ」
「2人、煩い」

3人のやり取りに荒木が言った通りだなって俺は思わず笑うと、3人は俺の方を見る。

「ご免、ご免。3姉弟って良いなと思っただけ。俺、ひとりっ子だし、こうしてわいわいする雰囲気がとても良いと思う」

俺は緑茶が入っている湯呑みを持って緑茶を飲み、荒木はくすって笑い、またキッチンで作業を始め、三斗君も荒木と一緒にやり始めた。

仁君は教科書を手に取って俺が作った類似問題の用紙を見比べて、自分のペンケースから赤鉛筆を取り出したので、お?早速取り組む姿勢があって良いね。

「ここの問題、いまいち理解が出来なかったから、式が思い出せなかった」
「ここはこの教科書のー…で、こうしたら解けるけど、マイナス記号が含んでいるから計算の順番をミスると駄目だよね」
「確かに」
「それだったら、この問題の類似問題をドリル形式の奴を使って復習してみると良いよ。計算式は反復練習でこなすのが1番」
「やってみる。後はここと、この問題だけどー…」
「それはー…」

俺はできる限り仁君の数学を見て上げていたら、部屋の中が美味しそうな匂いがしてきた。

「高坂君、良かったら御礼として夕飯も食べていって」

荒木が俺に声を掛けてきて机の上にスープが入ったお椀とお皿を置くと、お皿には美味しそうなオムライスがあって、ケチャップもかかっていた。

「わぉ。これって荒木が作ったの?」
「え?!あー、オムライスは三斗が作って、私はケチャップをかけただけで、スープは私が作ったわよ」
「姉ちゃんの料理は期待しない方が良い」

荒木の後ろで三斗君が呆れた顔でお鍋を持っていた。

「兄ちゃん、鍋敷きを持ってきて」
「ああ」

仁君は教科書をエナメルバックに突っ込み、席を立って食器棚に行き、そこから鍋敷きと食器を出して戻ってきて、鍋敷きを机の上に敷くと三斗君がドンっと鍋を置いて、俺は覗いてみると、野菜やソーセージが入っていて、わぁ…、気になる子の料理を食べれるのって最高じゃん。

荒木と三斗君がそれぞれ空いている席に座り、俺はスプーンで先ずはスープから…、うわ…、一口飲めばコンソメ味のスープが全身に駆け巡って、どんどんスプーンで掬って飲み、切られた具材が不恰好なのは黙っておこう。

でもそれを荒木が一生懸命に作ってくれたのが嬉しくて、口元がニヤけるのを誤魔化すためにスープを飲んだり、三斗君が作ってくれたオムライスを頬張った。

「ご馳走様でした。凄く美味しかった」
「ただ煮込んだだけのスープよ」
「それでもさ、作ってくれた気持ちが1番嬉しいんだ」

俺は使い終わった食器を持って席を立って、キッチンのシンクに行き、洗剤とスポンジで洗い出すと荒木が隣に来た。

「私が拭くわ」
「ありがとう」

なんだろう、2人で並んでいると自分の家にはない温かさを感じ、少しだけ心が切なくなって、それを悟られないように水の音で誤魔化して洗って、荒木は布巾で食器を拭いた。
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