離れた後の恋の仕方
荒木から仁の家庭教師の代理をしてから数週間が過ぎ、今日はサークルの立ち上げとして大学の教授に申請と、サークルの部屋を借りようと事務の人に交渉しようと奔走した。

サークルの申請を受け付ける教授は事務的な手続きで承認し、事務の人も同じ様な感じで、まぁ、大学には沢山のサークルがあるし、事務的な感じになるのは仕方ないな。

本を作る為のサークルがようやく形になり、充てがわれた部屋のドアの前に立ち、やっとだ、これがスタートで、俺が届けたい言葉で書いた本をようやく創れると嬉しくて口元が緩む。

「入るか」

ドアノブに手をかけてガチャと回して開け、おぉ、思っていたより広いし、部屋の中に入って見渡すと、長い机が2つと椅子が4つか…、必要な備品を置くとしたらどんな動線でいくとやりやすいか、考えただけでわくわくする。

「祐一を呼んで、先ずは必要な備品を揃えよう」

俺は早速スマホのメッセージで祐一に部屋の場所を教え、本人が来るまでどんどん欲しい物を考えていった。

文具はワンコインのショップで揃えられるし、家から使っていない印刷機があるからそれで試し刷りをさせてー…、小さな本棚も欲しいし、その本棚にはこのサークルを立ち上げるために出版社業界についての本、経営や経理のことの参考書、そしてテニスの本を入れたい。

ここで創った本はどうやって保存しようか悩むし、考えが湧き水のように浮かんでくる。

ドアがノックされたので俺は開けると祐一がいて、俺の背中越しの部屋の中を見ようと顔を傾けた。

「遂に始まるんだな」
「ああ。いつも祐一が相談に乗って、色んな本を読ませてくれたからだよ」

祐一は顔の向きを戻し、俺はどうぞと祐一を部屋に招入れ、ドアを閉めた。

「これから必要な備品を揃えたいから、付き合ってよ」
「勿論、付き合うよ。本の中身は決めた?」
「ああ、決めた。俺さ、スポーツの中でテニスが好きだから、それを伝える本を創る」

仁が俺に『好きな物を伝えてみれば?』というアドバイスのおかげで方向性が決まったのだ。

「良いじゃん」
「でしょ?先ずはこのガランとした部屋を快適にする所から」
「そうだね、やろう」

俺はバックからノートを取り出し、祐一とあーでもないこーでもないと言いながら備品のリストアップを書き出して、部屋を出て廊下を歩き出した。

先ずはワンコインのショップから行くことにし、祐一と雑談をしながら歩いていたら、遠くの方に荒木と佐々木の姿が見えたんだけど、佐々木が荒木の腕を掴んでいて、荒木が抵抗というか怖がっている様に見え、俺はなんて事をしてんだよと、かあぁと感情が昇っていくのが分かり、足早に2人の元に近づく。

「はいは~い、怖いことはしないこと〜」

俺は怒りを抑えながらあえて声を明るくし、佐々木が荒木の腕を掴んでいる手首を右手でガシッと掴むと、佐々木が俺に顔を向けた。

「何だよ」
「俺の“凄く大切な人”が怖がっているんだから、その手を離せよ」

低い声で佐々木に言う。

「俺と一美の間にずかずかと入って来んな」
「申し訳ないけどガンガンに入るし、荒木の顔を見ろよ」

俺が荒木に視線を向けると、当の荒木は完全に怯えている。

「て事で、離してくれない?」

俺はニコッと微笑むと佐々木は舌打ちして荒木の腕を掴んでいた手を離したので、俺もバッと離す。

「返事、電話をくれるのを待っている」
「うん、後で電話する……」

佐々木は歩き出して祐一の隣を横切り、姿が見えなくなった。

荒木はへなへなとその場でしゃがみ、俺も荒木と同じ視線の高さになるようにしゃがみ、右手を荒木の頭の上にポンっと置く。

「怖かった…」
「うん」
「佐々木の好きな人って私なんだって」
「そっか…」

先に告白されてしまったけど、今は荒木の恐怖心を溶かしてあげたいから俺の想いは蓋をして、頭の上に置いた右手を荒木の後頭部に添え、荒木の顔をグイッと俺の肩へ引き寄せた。

「“こう”しようか?」
「ありがと…」
「どーいたしまして」

俺は自分の顔を祐一に向け、空いている左手でご免のポーズをすると祐一は俺にニコッと微笑み、口パクで『後で』として、一旦サークルの部屋へと戻っていった。

暫くこの姿勢でいたら荒木が顔を上げたので右手を離し、俺は先に立って右手を荒木に差し出す。

「お手をどうぞ」
「ありがとう」

荒木はくすって笑いながら右手を差し出したので、俺はギュッと握ってグイッと引っ張って荒木を立たせた。

「助けてくれて、本当にありがとう」
「じゃあ、お礼にさ明日カフェラテのお店に行こうよ」
「とびっきり美味しいお店?」
「そう」
「楽しみにするわ」

お互い微笑んで、荒木はこの場から去っていき、俺は祐一がいる部屋に戻った。

「解決が出来た?」
「どうだろう。少なくとも明日は荒木とカフェラテを飲みに行く事は決定だから、帰宅したら服装を考える」
「ガンガンに行くね」
「イケイケドンドンだし、でも攻めすぎないようにしなきゃ。恋をするって難しいな」

お手伝いの林さんが俺の恋を応援してくれているし、明日はカフェラテを飲みに行くことに集中しようと決めた。
< 24 / 49 >

この作品をシェア

pagetop