離れた後の恋の仕方
いよいよ一美との5年ぶりのデートというか、とびっきり美味しいカフェラテを飲む日になり、カフェラテの後は『Focus』の記事で見つけた良さげな場所に行って、仕事終わりのプランを考えるだけでも楽しい。

スーツに着替えて荷物を持って1階のリビングに行き、自分で朝食の用意をして食べ始めていると、対面の席に親父が座って新聞を読み始めた。

俺が小さい頃は新聞紙を読む大人って格好いいと思ったけど、今は何とも思わないのは自分も年齢を重ねているせいもある。

ササッとご飯を食べて席を立ち、食器を自動食洗機に入れてスイッチを押してキッチンから洗面台の方へ行って歯を磨いた。

昼飯の後も念入りに磨かなくちゃとデート前の身だしなみは重要で、女性もだけど男の俺だって“凄く大切な人”と会うために気合い入れて昨日は美容室に行って髪を整えてもらい、洗面台で洗顔して男性用化粧水等で肌を整える。

両手でパチっと頬を叩き、よし、行くか。鏡でネクタイが曲がってないかを確かめ家を出て、最寄り駅まで歩き、電車に乗って藍山駅に向かった。

久しぶりの電車通勤は出勤ラッシュの人の多さに凹みそうだけど、今日の夜の事を考えれば乗り越えていけるし、電車の中吊り広告を眺めて雑誌の物をチェックするのも良いな。

週刊誌に月刊誌、月刊誌は女性誌系が多いし、うちの『Clover』も中吊り広告で展開するのもどうだろうか?あー…、広告を出す時は経理も絡むから経理部長のおっさんが重箱の隅をつつく様に言ってくる。

俺と祐一の様に親父とおっさんも学生の頃から知り合いらしく、親父が四つ葉を創る時に『経理は三井じゃないと務まらない』と言っていて、1つの会社に動くお金ってデカいからそれを10年以上細かく見るのも相当なプレッシャーだけど、性格がなぁ。

部数会議ではネチネチ言っているから姫川が毎回怒って会議がすんなり行かないし、水瀬も会議では姫川とおっさんの間を取り持つけど飲みの時は愚痴るし、仁は仁で発言は部数の数字を言う位で後は会議が終わるまで待っている感じだ。

次の部数会議も長引きそうで、直ぐ決まって欲しいよ。

藍山駅に着いて改札を出るとスポーツ部の水野がいたので、後ろから右手を伸ばして水野の肩をポンっと叩くと本人が振り返った。

「おはようございます」
「おはよ。今日はサマーリーグの撮影だろ?」
「ええ。田所さんが体調不良で代打で荒木編集長が行くことになって、俺と秋山も行きます」

2人で歩きながら今日の撮影予定を話す。

「水野はサッカーの取材は慣れてきた?」
「半分って所です。田所さんがいるのと居ないのとでは選手達の表情も違いますし、俺は事務的な感じで進めちゃうんですよ」
「進め方って人によって違うし、真似は全部する必要はないよ。荒木も田所も1年目は自分のやり方を手探りしていたし、今度荒木と田所のインタビューした音源を聴くと2人の違いがわかり易いから聴かせてもらいな」
「そんなに違うんですか?」
「違うね。俺も聴かせてもらったけど声のトーンも2人は違うし、田所の話し方は圧がなくて、荒木は相手のスピードの合わせて間合いも完璧に返しているよ」

俺も2人のインタビューを聞かせてもらったときは1年目と今じゃ全然違うし、水野もサッカー側を担当して大分経つけど、もっと成長して欲しいな。

「今日は日本代表にも選ばれている石井選手が所属するサッカーチームに行ってきます」
「良いね。格好いい写真をバンバン撮ってきてよ」
「ええ。秋山も昨日からレンズの調子を整えていましたし、俺も現場を温めてインタビューしてきます」
「頼んだよ」

四つ葉のビルに入って3階で水野と別れ、専務室に入ると橘が既にいた。

「おはよ」
「おはようございます」

俺は自分の席に着くと橘が俺の前に来て、手帳を広げた。

「本日のスケジュールですが、午前中はこの後に役員会議、ファッション部の水瀬編集長と副編集長との会議が順番にあります。午後は営業の方とご一緒に新しい書店にご挨拶となっています」
「今日も盛沢山だな。橘は役員会議に同行しないけど、水瀬達との会議は俺と一緒ね」
「私もですか?」
「そう。おっさん達の話しはつまんないし、嫌な話しばっかだから聞かない方が良い。水瀬達との方が断然良いし、この間の雑誌を選んだ基準を水瀬達に話してくれると良いな」
「分かりました」

すると専務室のドアが開いて仁が入って来て、俺の席の前に立つ。

「これから田所の代わりで行ってくる」
「水野と秋山もこの後に合流するんだっけ?」
「そう。今は会議室でサマーリーグの下書きを進めていて、俺は監督に挨拶するから先に行くのと、宝条さんに水野の取材の雰囲気を見せようかと思う」
「良いね。水野と秋山の取材の手順とか雰囲気も見たら、宝条さんにもいい刺激になるね」
「行ってくる」

仁はそう言うと専務室を出て行ったので、俺も行くか。

「役員会議中に何かあれば遠慮なく会議室に入って大丈夫だから、居留守番をお願いね」
「はい」

俺も専務室から出て行き、役員会議に使われる会議室に入っていった。
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