離れた後の恋の仕方
タクシーで三斗が営んでいるBarに向かい、お店の近くにタクシーが止まり、精算して降りて、Barの鉄の扉を開けるとカウンター席に姫川がいて、三斗はシェイカーを振っている。

俺は姫川の隣にドカっと座ると、三斗がシェイカーを振る手を止めて空いたグラスにアルコールを注ぎ、別のお客さんに持っていった。

「次の部数会議もおっさんと言い合うのは良いけど、長引かせないでね」
「向こうが直ぐ了承すりゃ長引かずに終わるんだよ」

姫川はブスッとして、泡がいっぱいのアルコールをゴクゴク飲んでいると、三斗が戻ってきてカウンター内に戻った。

「何か飲む?」
「んー、ワインって気分じゃないし、お腹が空いているからご飯系からにしようかな」
「この前と同じで良い?」
「それが良いな」

良い感じでデートが終わったら祝杯としてワインって言いたかったけど、そうじゃないのはやっぱ最後に会った男と一美の関係が気になっている自分がいる。

「俺はもう行く」
「ありがとうございました。また」

姫川は先にBarを出て、三斗はご飯系のつまみを作り出し、いい香りがしてきたな。

「ほら」
「ありがと」

出されたハンバーグとご飯、目玉焼きが乗っていて、相変わらず美味しそうに作ってくれるね。

俺はスプーンで一匙一匙掬って食べ、このハンバーグのソースとご飯を同時に食べるのが美味い。

「ねぇ、今日って姉ちゃんと会った?」
「会った」
「やっぱな。姉ちゃん、ずっとご機嫌だった」
「そうなの?」

三斗から一美の様子を聞くと、ご機嫌だったなんって嬉しいな。

「週明けから天気を気にしていたり、機嫌が良すぎて父ちゃんは引いていた」
「俺と出かけるってお父さん達は知っている?」
「母ちゃんは気づいてないけど、父ちゃんは感が良いほうだから気づいていると思う」
「そっか…」

一美のご両親も、三斗も、仁も…荒木家の皆には俺のせいで傷つけてしまったのがあるから、俺と一美だけはしゃいでるのもな。

それでもようやく離れた分を上書きする事が出来そうで、復縁?迄の道のりは大変そうだ。

「俺と兄ちゃんは稔達の事は賛成しているし、父ちゃんもかな。でも母ちゃんだけは一発お見舞いされるのは覚悟した方が良い」
「それは覚悟してる」

一美のお母さんは俺に思う所が沢山あるだろうし、お見舞いされるのは覚悟している。

「あ、そうだ。三斗って一美の元カレの人って会った事がある?」
「どうしてそんなことを聞くんだよ」
「実はさー…って感じでいたから、もしかして俺が離れていた間の元カレかなって」
「姉ちゃんは5年前から誰とも付き合っていないよ」
「そうなの?」

三斗の言葉にホッとする自分がいて、俺も5年前から1人で過ごしていたもんな。

「言い寄ってきた人はいるけど」
「何?どういう男?!」
「姉ちゃんが高校生の時に付き合っていた元カレ」
「うわ…、前に佐々木が言っていた男か」
「佐々木の兄ちゃんに会ったの?」
「この前、偶然会ってね。高校生の彼については大学の時に聞いたけど、元カレかぁ」

今度のライバルは元カレか、やっぱ離れているとそういう事もあるか、でも俺も自分の事は言えないな。

一美と会っていない5年の間は親の勧めで見合いをさせられて、言い寄ってきた女性も何人かはいたけど心は動かなかった。

俺はスプーンでバクバクと食べて完食し、財布を取り出して代金をカウンターの上に置く。

「料金なんていいのに」
「きちんと払うし、そうさせて」
「………分かった」

三斗は渋々と受け取り、俺は店を出た。

タクシーでって思ったけど夜風に当たりたくて最寄り駅まで歩き、ふと夜空を見上げた。

「楽しかったな」

とびっきり美味しいカフェラテを飲んで、ランタンを見て、次のデートが楽しみにしていた所に昔の元カレのご登場ときて、“離れた後の恋”はすんなり進まないな。

小さな溜め息を吐いて実家に戻っていった。
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