離れた後の恋の仕方
◆5年ぶりのキス
いよいよ青木印刷所に部数を伝えるためにもう一度会議を開く日になり、仁から『3日後、おっさんを黙らせる様にする』ってメッセージが来たけど、ちゃんと黙らせる事が出来るのか不安だな。

ダイニングで食パンをかぶりついていると、親父がリビングに入って来て俺の対面に座って新聞を広げる。

「今日で部数を決めないと駄目だぞ」
「俺じゃなくておっさんに言えよ」

俺が姫川の様にブスッと言うと、新聞越しに親父の溜め息が聞こえ、俺だって溜め息をつきたいくらいにあのやり取りは飽きている。

「先に行く」

俺はダイニングを出て洗面台で歯を磨き、ネクタイを整えて玄関を出た。

最寄り駅に行き、電車に乗って藍山駅に向かいながら車内の広告に目を向けて、色んな情報を確認する。

売り出し中の若手俳優が出演するドラマの広告だったり、医薬品や飲料水、お、あれは後藤が編集している雑誌の広告が目に留まり、やっぱこうした広告を出したいな。

駅に停まる度に人の流れが凄く、満員に近い状態になり、やっぱ祐一の車の運転が1番で早く復帰して欲しい。

藍山駅に着いて改札に出ると姫川が見えたので、後ろから肩を叩くと本人が振り返って嫌そうな顔をされる。

「そんな顔をしないでよ〜」
「朝から見たくもねぇよ」

何か俺、凄い言われようだなと思いながら2人で四つ葉に向かう。

「後で会議だけど、頼むね」
「ああ」

ビルに入って2階で別れ、俺は3階に行き、専務室に入って自分の席に座ると橘が入ってきた。

「おはようございます」
「うん、おはよ〜。これから青木印刷所に連絡するから、スケジュールの確認は終わった後でね」
「かしこまりました」

橘は自分の席に座り、俺は机の上にある電話機の受話器を取って青木印刷所に連絡し、担当者に事情を説明して決まったらもう一度連絡する旨を伝えた。

連絡を終えると橘がバックから手帳を出して、俺の前に立つ。

「本日のスケジュールですが、午前は人事課と中途採用についての会議が1時間、その後は部数会議です。午後は野球施設に伺う事になっています」
「オッケー。橘は人事課との会議と野球施設には一緒に参加ね。野球施設に関しては手土産を持参したいから、この前の和菓子屋に行くよ」
「かしこまりました」
「じゃ、早速人事課に行こうか」

俺と橘は専務室を出て階段を降り、1階の人事課と営業が入っている部屋に入り、俺は人事部長と企業説明会を担当した浅野を手招いて部屋の奥にある小さめなミーティングブースに移動した。

俺と橘、対面で部長と浅野が座り、早速中途採用についての話を始める。

「水瀬編集長からは年内に3人退職だと伺っていまして、中途採用を取るのでしたら引き継ぎを考えて8月から募集が1番かと」
「3人か…、この3人の能力が活かせられ無かったのが残念だね」
「この3人の内2人はタウン情報部に異動した九条さんと同期で、もっと続けていくと思いました」

部長から退職予定の3人の事を聞くと、後で水瀬に個人的に話を聞くか。

「スポーツ部の水野さんと秋山さんも同期でしたよね」
「そうだね。この2人は俺が面接をしたけど、入れ替わりが激しい編集部の中でよく頑張ってくれてるよ」
「僕達は定時で上がれますけど編集部はそうじゃないですし、企業説明会や面接する際は長く続けてくれるかな?って思います」

浅野がそう言う気持ちも分かるし、こればっかりは本人のやる気次第なんだよな。

「次の中途採用は水瀬も同席させて、本人の採用の目を鍛えさせるよ。編集長になって5年だし、メンバーの能力も大分分かってきていると思う」
「分かりました。採用条件や人数は水瀬編集長と交えながら求人情報を作成します。載せる媒体はウェブと紙媒体のどちらにしますか?」
「総務課の星野さんの様にウェブが良いかな。中途採用ってパソコンやスマホで調べる人が多いし、直ぐ人材を確保したい」
「かしこまりました。浅野が文章を作るのが上手なので、頼んだよ」
「任せて下さい!」

部長も浅野が早速動こうとしてくれて、とても頼もしいし、その後も来年度の新入社員の採用についての話になり、橘と宝条さんが入社したばかりなのに就活は大変だ。

「来年度は編集部の他に、経理や総務も募集をかけようかと話が役員同士で上がっています」
「経理の木暮の様に強い奴が欲しいし、総務もどんな人が来てくれるか楽しみだね」

話は1時間きっちりと使い、次はいよいよ部数会議だ。
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