離れた後の恋の仕方
四つ葉での仕事を終えて家に帰り、自分の部屋に入って私服に着替え、まだお腹には会食の食事が残っているから食べる気も無いし、夜は小言の煩い母親と親父はいないから1人だから、あと少ししてからデリバリーを頼むか?

スマホでデリバリーのアプリを操作していたら画面に『着信:一美』と表示されたので、即通話ボタンを押して耳に当てる。

「もしも〜し」
『今、電話は大丈夫?』
「大丈夫だけど、どうした?」
『今週末の土曜って会える?』
「手帳を見るから待って」

俺は空いている手でバックから手帳を取り出してぱらっと捲って、スケジュールのページの時間枠を確認した。

「特に会食は入っていないから会えるよ。一美からのデートのお誘いなんて嬉しいな」
『デートじゃないわよ!付き合って欲しい場所があるの』
「え〜、それをデートと言うんじゃないの?」
『馬鹿な事ばかり言うと、切るわよ』

マズイ、本当にやりそうだ。

「ご免。切らないで」
『ほんとにもう…』
「車を出すし、遠出もできるよ」
『遠出じゃないわ。お父さんに頼まれて、行きたい場所があるの』
「それって、お父さんに俺が行くって話しはしてる?」
『……話してない』

まだ一美のご両親に俺達が復縁に向けているのって挨拶していないし、前に三斗は俺と一美が会っているのをお父さんは勘付いているって言っていたけど、こそこそ会うよりもお母さんの左手を一発お見舞いされることを覚悟して会いに行った方が良い。

「俺達の事を筋を通したいし、会ってきちんと話をしたい。仕事終わりに会えるようにお父さん達の都合を聞いてみてくれる?」
『今、お父さんがいるから聞いてみる』

電話口からパタパタと足音が聞こえ、聞きに行ってくれているのが分かり、また足音が聞こえてガサガサと音がする。

『金曜なら大丈夫って』
「分かった。日取りを取ってくれて有難う御座いますと伝えてね」
『………稔のご両親は?私よりも稔の方がー…』
「俺の親より一美の方が優先」

一美の言葉を被せる様に言い、スマホを握る手の力をギュッと強くする。

「お母さんからの一発、覚悟は出来ているし、この先もずっと離れない事を信じて貰える様に伝えるからさ、隣で見守っててよ」
『………うん。氷嚢を用意しておく』
「格好いい顔が台無しになったら慰めて」
『…………』

俺がそう言うと、電話口の一美は黙ったままでいる。

「ねぇ、一美」
『………うん』
「離れた日から今日も、この先もじぃさんになってもずっと一美だけを想っているから…」
『………ん』
「信じて」
『……ん、信じー…』

電話越しで泣いているのが伝わって、傍で抱きしめたい気持ちが湧いてくる。

「電話越しだから抱き締める事が出来ないのが残念」
『もう…、電話で顔が見えなくても稔がどんな顔をしているか、想像が出来るわ』

その言葉に窓の方をみて自分が反射で写っているのを見るけど、顔は笑っていなくてそんな切ない顔をすんなよと自分に突っ込む。

「挨拶が終わったらさ、とびっきり美味しいカフェラテのお店に行かない?」
『良いわよ』
「この前、一美に話をした季刊を持って行くし、お父さん達への手土産として美味しい和菓子を持って行くよ。好きなのはこし餡って覚えているよ」
『よく覚えているね』
「忘れるわけないよ」

“凄く大切な人”の事とその家族の事は忘れるわけない。ご両親も、三斗と仁は近い将来に“凄く大切な弟”になるんだから、出会った時から今日まで過ごした事は忘れるわけない。

「そろそろお父さんが気にするだろうから、切るね」
『分かったわ』
「週末のお誘い有難う。その前に金曜は見守っててね」
『見守る…』
「メッセージはいつでも大丈夫だからさ、俺も送るよ」
『私も。またね』

一美から電話を切る音がして、俺はふぅっと息を吐き、ベットに腰掛けた。

最初はデートだと喜んでいたけど、やっぱきちんと話をして堂々と一美に会いたいし、5年ぶりにご両親に会うとなると色んな緊張が出るな。

あ、そうだー…、俺は連絡先の一覧表から佐々木の番号を表示させて発信ボタンを押し、4コールで繋がった。

『何だよ』
「突然で悪いねぇ。今度の金曜に一美のご両親に会うことになってさ、とびっきり美味しいこし餡の和菓子を金曜の昼間に買いに行きたいんだけど」
『………一美のお母さん、こし餡より果実の大福にハマっているぞ』
「マジ?聞いておいて良かった〜」
『俺が和菓子屋に転職をしてから不動産屋で出すお茶菓子用にずっと贔屓にしてもらっているし、お父さんはこし餡を好んでいるから大丈夫』
「流石、幼馴染みはよく知っているね」
『腐れ縁だって分かっているだろ』
「うん。ちゃんと答えてくれるのも分かっているよ」
『うざってぇ。金曜の昼間に渡せるように職人の人に言うから、今度お礼代として酒を奢れ』
「勿論。美味しい店を予約しておく。じゃあ、金曜にね」
『…………なぁ、高坂』

とびっきり美味しい和菓子のお礼として奢るのは当たり前だし、電話を切ろうとしたら佐々木の声が少し真面目なトーンになったのが分かる。

「ん〜?どうした?」
『金曜、頑張れよ』
「ありがと。またな」
『おう』

俺から電話を切り、これで手土産は大丈夫で後はスーツだなと思い、懇意にしているファッションブランドのデザイナーに連絡し、金曜に会う経緯を話して服装を見てもらうことにした。

後は祐一にスマホのメッセージで一美のご両親に会う事になったことを送ると『一発、貰うことは覚悟しないとね』と返ってきて、やっぱそう思うよな。

スマホを机の上に置いてバックからペンを取り出し、手帳の金曜のスケジュール欄に『一美のご両親に会う』と書き、パタンと綴じた。
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