離れた後の恋の仕方
四つ葉のビルを出ると手配された車が1台停まっていて、俺と橘は乗らずに親父が来るのを待つ。

青木印刷所にはこれから先も四つ葉の3雑誌の印刷を手がけて欲しいし、去年から考えている4誌目を創刊するか…これは俺が社長になった時で今は“Scoperta”の存続が大事だ。

「待たせたな」

振り返ると親父がいて、俺は後部座席のドアを開いて先に親父を奥側の席に行かせ、続けて俺も後部座席に座ってドアを閉め、窓を下げる。

「橘も前に」
「はい」

橘は助手席のドアを開けて座り、俺は運転手に青木印刷所の住所を告げ、車は走り出した。

「5月号はどうなんだ」
「『Clover』が巻き返して、『Focus』は先月と変わんない動きだね」
「“Scoperta”は?」
「5月号はインパクトが強くないから目標数は厳しい」
「そうか」

親父はそう言うと車窓からの景色を眺め、『そうか』だけかよと俺はブスッとする。

俺だって“Scoperta”が読めなくなるのは嫌だからスポーツ部には頑張って欲しい思いがあるけど、現実は読者に手に取って貰えないのが悔しい…。

「6月号と7月号で巻き返しをしないと、相当厳しいぞ」
「分かってるって!荒木はいつも奮闘しているし、そこもきちんと見ろよ!」

俺は親父の言葉に反抗期の高校生のように言い返し、くそムカつく。

仁や田所の、スポーツ部の奮闘振りをずっと見てきているし、姫川と水瀬だって毎月結果を出そうと遅くまで頑張ってくれているのを頭の固いおっさん達は分かってないな。

そうこうしている内に車は青木印刷所に到着し、俺と親父が戻るまでは橘には近くの喫茶店で待機してもらい、2人で青木印刷所に入る。

前は水瀬の私情で来たけれど、その時はゆっくりと働いている社員達の普段の様子が見れなかったから、今日は見れるといいな。

事務員さんに案内で社長がいる部屋に通してもらい、応接間の様な席に其々が座り、親父が青木印刷所の社長と幾つかの話しを進めるのを隣で聞く。

「四つ葉さんの5月を手がけられて良かったです。他社の雑誌も引き受けてますが、7月号の印刷から一定期間は発行が出来なく成りましてね、我が印刷所にも遂に来たかと話題になっています」
「現在はインターネット上でも情報を得られますし、1つの雑誌の魅力をもっと読者に届けたいと思います」

青木の社長もここ最近の出版社業界の不況を感じているそうで、親父の話も分かる。俺もたまにスマホで情報を見ることはあるけれど、やっぱ手元に置いていつでも直ぐに読めるのは本の魅力だし、なんと言っても自分の言葉を読者に届けられるのがいいから、親父から1つの雑誌を創ってみろと言われた時はすげぇ嬉しかった。

「良かったら機械室を見てみますか?」
「是非!お願いします」

青木の社長からの提案に俺は直ぐ乗り、3人で機械室に入らせてもらい、おぉ、次々と印刷される原稿をこの目で見れるのは嬉しくて、心の中では初めての社会科見学に参加した小学生並みのはしゃいでいる。

「今印刷されているのが、四つ葉さんのファッション部の重版です」

5月号の『Clover』は新生活後の着回しの特集を水瀬の部下の子がコーディネートを試行錯誤しながら手がけたって、水瀬が話していたのを思い出す。

その子が新生活と経済状況の経験を活かし、洋服を買う楽しさをもっと感じて欲しくて、四つ葉の社員達にコーディネートの取材や商業ビルに行ってお客様の服装をチェックをしていたってことも言っていた。

その甲斐があって素晴らしい出来になったと水瀬が嬉しそうに話してくれて、事実『Clover』の成績も年明けに比べて巻き返していたもんな。

機械室の人から1冊の本をはいっと渡されて受け取り、この出来たての本の感触がたまんないねぇ。
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