離れた後の恋の仕方
一美からのメッセージの返事が来ないまま翌日になり、仕事が忙しいのは仕方ない。

一美が荒木3姉弟の中で家業を継いで仕事をするのを大学時代から知っていたし、不動産屋関係の資格も頑張って勉強して取り、それを活かしているんだから本人の努力が凄いと思う。

洗面台の鏡でネクタイをギュッと締め、よし、キッチンに行くと母親がフライパンで朝食を作っているところで、俺は冷蔵庫の所に行き、扉を開け、さてパンでも食べようかなと、パンが入った袋に手を伸ばした。

「ご飯、作ったから食べなさい」
「え?」

後ろから母親に声を掛けられて振り向くと、フライパンからお皿に目玉焼きを入れている所で、俺はパンを取らずに冷蔵庫の扉を閉めた。

「冷めないうちに早く」
「分かったよ」

母親に促されて食事をするダイニングに行き、椅子に座ると目玉焼きとソーセージが焼かれたお皿が机の上に置かれた。

「………ありがと」
「私は出かけてくるわ」

母親は部屋を出て行き、俺はお皿をじぃっと見て、母親が朝食を作ってくれたのは何年ぶりだ?ー…っていうか、どういう風の吹き回しだよ。

ソーセージをフォークでさして口に含むと、パリっという音がして焼き加減も丁度良い。目玉焼きも食べると俺好みの柔らかさで、黄身も良い硬さだ。

「………美味い」

朝から母親の朝食を食べれるとは思わなくて、心の中で何かが溶けていきそうな感覚があり、俺は黙々と食べてあっという間に完食した。

食器をキッチンのシンクにある自動食洗機に突っ込んで、出掛ける用意を済ませて家を出る。

最寄り駅から電車に乗って揺られ、藍山駅に着いて四つ葉に向かいながら母親が作った朝食のことを振り返り、いつしか自分で朝を食べるようになっていたから、母親の料理なんて何年ぶり?それでも俺の好みの焼き加減を覚えているものなんだ。

「高坂専務、おはようございます」

背後から声を掛けられて振り返るとファッション部の副編で、その隣にも同じファッション部のメンバーがいた。

「おはよ〜。6月号の原稿のコピーを読ませて貰ったよ。とても良かったし、発売が楽しみだよ」
「有難うございます!」

皆で四つ葉に向かいながら6月号の話で盛り上がる。

「今夜七時にいつもの居酒屋で飲み会をするんですけど、高坂専務もどうですか?」
「そ〜だな」

一美からの連絡が来ていない事に気になるけど、一緒に働く皆との時間を過ごすのも良いし、参加しよう。

「良いね。参加するし、皆も残業はそこそこにね」
「有難うございます!」

四つ葉のビルに入り、階段を上がって2階の所で副編達と別れ、3階の専務室に行き、部屋に入ると橘はまだ来ていない。

俺は自分の椅子にドカっと座り、飲み会があるなら6時30分くらいに四つ葉を出ればいいし、今日も仕事をこなそう。

専務室のドアが開いて橘が入ってきたので俺も自分の荷物を取り出して仕事の用意をし始め、橘が手帳を手にして俺の前に立ち、スケジュールを確認する。

「本日は役員会議は無く、午前中は高坂社長と共に出版社業界の社長達が集まる会合への参加、午後は雑務です。そして他の課の動きですが、本日は先日姫川編集長が仰っていました地域の広報の方が来社し、姫川編集長と九条さんが対応。経理課は木暮さんが新しい広告との契約で対応し、高坂専務にご報告に来るそうです」

いつもなら橘がスケジュールを淡々と述べるだけなのに他の課の事を把握していて、やるじゃん。

「他の課を頭に入れているの、良いね」
「………ありがとうございます。高坂専務が全体を見渡して把握しているのが凄いですし、私はまだまだです」
「それでも自分から四つ葉の動きを分かろうとする姿勢は良いし、あ、今夜いつもの居酒屋で四つ葉の飲み会があるから、橘も行こうよ」
「今夜ですか?」
「うん。四つ葉の社員達が殆ど出るし、頭の固いおっさん達は来ないから、超楽しいよ」

俺はニコニコしながら誘ってみる。

「……参加します」
「良かった。後でファッション部の副編に伝えるね。早速会合の準備に取り掛かろう」
「はい」

俺は橘と会合の準備をし始めた。
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