離れた後の恋の仕方
親父が使う社長室に入ると、頭の固いおっさん達と親父がソファに座っていて、俺も親父の隣の空席にドカっと座る。

「静かに座らんか。自分の家じゃないんだぞ」
「へいへい。気をつけますぅ」

俺は親父の小言を適当にあしらい、頭の固いおっさん達は俺達のやり取りにやれやれとした表情でいる。

会議では話題は8月号から年末年始に向けてになった。

「年末年末は青木印刷所も休日の関係で稼働はしない。通常よりも早く原稿の提出が必須で、3雑誌の編集長達には具体的な内容や部数を決めてもらいたい」
「10月号や11号の時期は季節は秋や冬になるので、他社の雑誌も力の入れ様は年末年始とは違って鈍るだろう」
「年始は特大号として力が入る雑誌も多いだろう」

おっさん達が次々と話すけど、実際に原稿を作るのは編集部なのに…、俺が社長になる時は編集部や木暮とかもっと現場を見ている社員達に役員の称号を与えたい。

「お前も青木に挨拶してきたんだろ?向こうの反応はどうなんだ」
「他社の雑誌が休刊になるから、継続的に印刷の依頼が来る四つ葉に感謝してた」

親父に聞かれ、インターネットの登場でネット上でも雑誌を読める時代になり、青木印刷所も印刷の依頼がぐっと下がったと感じていて、俺達四つ葉の印刷がこれからも続いて欲しいと願っていたっけ。

勿論、俺だってこの先も最高の雑誌を作って読みたいから、姫川達には踏ん張ってもらいたい。

「書店も閉店になるケースもあるから、時代だな」
「それでも読者が俺達の雑誌を手に取って貰っているし、姫川達の頑張りを見てほしいね」

俺はおっさん達にそう言うと、経理課のおっさんだけはブスッとしている。

「ふん。相変わらず編集長達にべったりだな」
「べったりで結構。おっさんの様に嫌われるよりかはマシだし」

俺は特大スマイルを経理課のおっさんに向けると、営業の部長は笑いを堪える表情をする。

「な…?!おい、高坂!」
「俺も高坂だよ?」
「お前じゃない!隣の社長だ!!」

経理課のおっさんは顔を真っ赤にしながら親父を指でさす。

「この息子の態度、どうにかせんか!!」
「言った所で改める男でもない。会議は終わりだ」
「ほら、行くぞ」

親父が会議の終了を告げると経理課のおっさんは営業の部長になだめられながら社長室を出て行き、部屋には俺と親父だけになる。

「お前も三井の機嫌を損ねるのも飽きないな」
「俺は事実を言ったまで。じゃあ、俺も戻るわ」

俺もソファから立って手をひらひらさせて社長室を出て、腕時計を見ればもうそろそろ定時だ。

専務室に戻って橘を上がらせて、俺は自分の椅子の背もたれに身体を深く沈ませ、椅子をクルッと窓の方に回転させて、1人でぼうっと外を眺める。

「行きたくない…」

俺しかいない専務室で、弱い声で本音を吐き出す。

普通のパーティーなら喜んでって言えるのに、今回はというか、今後もこうした誘いは応えない様にしなくちゃ。

椅子を元の向きに戻して、机の上に置かれた可愛い一筆箋を手に取ると、俺は思いっきりビリッと破いてもっと細かく破いてゴミ箱にぱらぱらと捨てた。

誰かに自分の気持ちを聞いてほしくて、こう言ったのって……、仁なら一美の事も話せるからそうしようかな。俺はスーツの内ポケットに入れたスマホを取り出して、仁に電話をし、事情を話す。

「すげぇ行きたくない」

声もさっきの弱い声よりも心底嫌がる気持ちも込めて吐き出すと、仁が明日も話を聞いてくれることになって電話を終える。

専務室を出て、暗い廊下を1人で歩いて階段を降りて、四つ葉のビルを出て、藍山駅に向けて歩きながら一美の顔が浮かんだ。

一美が仙道さんから告白された事をきちんと俺に話してくれたように、俺もパーティーの事を話さないと不公平というか、俺の女性関係でもう振り回したくない。

先ずは相手に断りの連絡をしてから、一美に話そうと決めた。
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