離れた後の恋の仕方

※塩をまかれる覚悟で

5年ぶりに一美と繋がってから数日後、久しぶり三斗の店に顔を出しに行く。

鉄の扉を開けて中に入ると、三斗がジロッと俺に厳しい視線を送ったので、俺は右手を上げた。

「よっ」
「ちょっと裏に来て」

三斗が右ひと差し指でスタッフルームの扉をビシッとさしたので、あ〜、これは塩をまかれるなって覚悟が出来て、スタッフルームの扉に向かい、俺は扉を開けて中に入ると、バンッと扉が閉まる音がした。

扉の方に振り返ると三斗が姫川の様にブスッとしていて、手には何も持っていない。

「塩、まくんじゃないの?」
「うっせー。まいたら掃除が大変だし、今の御時世、塩一袋は高いんだよ!」

三斗がスタッフルームの椅子にドカっと座って、俺は突っ立ったまま扉に背中を預ける。

「店は大丈夫?」
「準備中にしたから平気。っていうかさ、俺だって実家の車を使うんだから、いちゃつくなよ」

あ〜、やっぱりバレてたか。

あの日の帰り、一美を送りがてらコンビニに寄って、2人で芳香剤スプレーとかかけてで誤魔化したんだけど、効果は無かったんだ。

「よく解ったね」
「いつも使う芳香剤じゃねぇし、姉ちゃんの首にマーキングしただろ。それで察した」
「きゃっ、マーキングだなんて照れちゃう」
「はぁ?」

俺はわざとヘラっとすると、三斗がよりブスッとする。

「ご免、ご免。でもって言い方はあれだけど、理由なくつけた訳じゃないよ」
「じゃあ、何んだよ?」

俺は寄りかかった背中を起こして、三斗の対面にある椅子に座った。

「あるパーティーの招待状が届いてさ、同封されていた可愛い一筆箋に『紹介したい女性がいる』って書かれてた」
「え…」
「安心して。断ったし、これからも受けないよ。それを一美に話して、後はご指摘通りの流れだけど」

俺はあの日の理由を話すと、三斗は気まずい表情になった。

「知らないで言って、ご免」
「いーや。元は俺が理性を保てなかったのがいけないし、今度車のメンテナンスをする時は良いところを紹介するよ」
「良いの?」
「勿論。これからは2人で出掛ける時は、俺の愛車で迎えに行く」
「そうしてくれなきゃ困るって」

三斗が困った顔で言うと、今度は姿勢を正すので俺も改めて正す。

「もう姉ちゃんの所から離れないよね?」
「前に実家にお邪魔した時、ご両親に『じぃさんになっても離れない』って伝えたよ」
「そうなんだ」
「ああ。その時の言葉に重なるけどさ、5年前…、三斗と仁の心を傷つけて、本当にご免」

俺は深く頭を下げ…、何度も頭を下げても足りないくらい傷つけてしまったことは消えないし、皆の心には5年前の事が残り続けるだろう。

「頭をあげてよ」

三斗の言葉で頭を上げると、三斗は瞳が真っ赤で潤んでいる。

「姉ちゃん…、稔と離れた後はさ、俺が店に稔が来ている事を話してたら『ちゃんとご飯は食べてる?』とか『毎日遅くまで仕事をしてるの?』って時々聞いてきてさ」
「うん」
「俺は『あんな最低野郎の事なんて、気にしてどうすんだよ』って返したらさ、姉ちゃんが何て言ったと思う?」

確かに俺は人生を台無しにした最低野郎だし、否定はしない。

「『大切な人だから、気になるのよ』だって」

三斗がそう言うと、ああ…、いつも俺が一美の事を“凄く大切な人”と表すように、一美もそうなんだ。やばいな…、じわっとしてきて、視界が滲む。

「別れた後もさこんなにも両想いなのに、中々稔が姉ちゃんの所に行かないのが悶々としてたけど、あの日にやっと行ったのが嬉しかった」
「三斗が行けるように押してくれたおかげだよ」
「ふん。次はー…もう離れないだろうと、今の話で確信が持てた」

お互い鼻を啜って、部屋の空気も少し和んできたのが感じるし、末っ子の三斗に俺達はこんなにも気にかけてくれてたのが嬉しい。

「ねぇ、三斗」
「何だよ」
「一美と2人で来た時はさ、一美にとびっきり美味しい林檎の飲み物を作ってよ」
「任せてよ」

俺のお願いに三斗は満面の笑みで答え、俺は右手を差し出す。

「俺と一美の事をずっと見守ってくれて、ありがと。これからも見守って」

すると三斗は右手を差し出したと思ったら、俺の手をぎゅうっと強く握る。

「塩をまくような事はしないでくれよな」
「勿論。喉が渇いたから、三斗のおすすめのワインを飲みたいな」
「分かったよ。あまりくどくないボトルがあるから、カウンターの方に行こうぜ」
「ああ、ありがと」

2人で椅子から立って部屋を出て、この日は塩をまかれるかと覚悟をしていたけど、そうじゃなくて、ワイングラスを片手に三斗とじっくり話した。
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