離れた後の恋の仕方
四つ葉に戻り、橘と仕事を進めていき、定時になった時間で橘をあがらせる。
「今日もお疲れ。また明日ね」
「はい。あ、あの…」
「ん〜?」
「本日のお昼…、嬉しかったです」
橘は肩にかけているバックの紐をきゅっと握った。
「いーって。この後は荒木とじーっくり話すから、もう行って良いよ」
俺は特大スマイルで言うと、橘は体をビクッとさせた。
「で、では失礼します」
「うん、またね〜」
橘が出て行き、俺は椅子の背もたれに体を沈ませる。
「しっかし、仁のモテっぷりは相変わらずだな」
あいつが入社した時、仁抜きの水瀬だけが出た歓迎会でも仁の話題が凄かったし、それから毎年新入社員の一部で仁に惚れる女性社員がいるけど、当の仁はその事に全く興味ない感じでいる。
今年は可愛い部下の宝条さんと橘だけの新入社員だけど、先に惚れたのは橘か…、宝条さんは仁と10も離れているし、年上好きとはならないかも。
専務室のドアがノックされて開いて佐藤が入ってきて、手には幾つかの紙束があって俺の前に立った。
「6月号の原稿で、高坂専務に一度読んで欲しいです」
「良いよ〜」
俺は佐藤から紙束を受け取り、黙読するとあるバレーボールの選手を追いかけていた事が丁寧に書かれていて、いかにこの選手を読者に伝えたいかが言葉に表れている。
「佐藤のこの選手とバレーボールに対する気持ちが込められて、読後感がとても良いね」
「ありがとうございます!8月号もこの選手が出てくるので、両方ともページを減らす事が無いように田所とぶつかります」
「どんどんぶつかってよ」
「はい!読んでいただいて、ありがとうございました!失礼します」
佐藤は嬉しそうに紙束を抱えて専務室を出て行き、入れ替わりで水野が入ってきた。本人はちらっと橘の席に視線を送り、また戻して俺の前に立つ。
「高坂専務にフィードバックをお願いしても良いですか?」
「良いけど、俺、荒木よりキツく採点するよ?」
「覚悟はしてます」
水野はデニムのポケットから録音機を取り出し、俺の机の上に置いて再生ボタンを押した。
録音機からは水野と相手の声が流れるけど、よく聴いて見ると相手の声が落ち着くというよりも機械的に答えているというか感情が伝わってこないし、水野はその相手の声の状態に気付いていないぽい。
時折雑談も交えているけれど、うーん、まだ田所の領域に行ける前に、水野が佐藤にでさえ劣っていると感じ、俺はまだ取材が流れている録音機の再生ボタンをブチっと停止して、水野に顔を向ける。
「マジで駄目だね」
「…………すいません」
「相手の心情が全然伝わってこないし、水野だってサッカーの経験があるんだから、もっと相手の気持ちを引き出せる事が出来る筈だよ」
俺がそう伝えると、水野は両手をぎゅうっと強く握った。
「やってみせます。また聴いて貰えますか?」
「うん。いつでも良いし、田所のページを減らすくらい挑んでみてよ」
「勿論です。この後、田所さんと飲むんで本人の取材の声を聴かせて貰います」
「うん、良いと思う」
「はい!失礼します」
水野は一礼し専務室を出て行き、暫く1人で過ごし、そろそろ帰って家で仁に連絡するかと思い、専務室を出て行くと、丁度仁と会った。
藍山駅に向かいながら今日の仁の橘に対する態度に注意すると、本人は口では『分かった』っているけど、前髪のせいで表情がよくわかなんないな。時々最近の仁の様子も気になるし、かといって聞いても言わないタイプだから困ったもんだ。
其々藍山駅でタクシーを捕まえて実家に戻り、自分の部屋に入ってスーツをバサっと脱いで、ネクタイをほどき、ふぅっと息を吐く。
就寝用の服に着替え、ベットでゴロンと横になりながらスマホのニュースアプリを開いて、各ジャンルのニュースを読んでいくと、スポーツのページにトップで見出しが出ていたのは佐藤が追いかけているバレーボールの選手についてだ。
俺は起き上がってじっくりと読むと、まずいな…、この内容からするに佐藤の原稿の結末が見えてきて、即仁にニュースの事をメッセージで送ると既読になる。
警察に知り合いがいるし、ちょこっと話しを探りたいし、青木印刷所に提出する日程が迫っているので明日はスポーツ部で緊急会議だ。
俺はすぐ仁に電話をかけて、明日9時に会議室に全員集まるように言い、警察の知り合いにも電話をかける。
『詳細は言えないが、先ずは任意で連れて行くかもな』と知り合いがそう言い、任意であっても一度ついた悪いイメージを覆る事って無いに等しい。
確か仁は原稿のストックはあると言っていたので青木印刷所の提出に間に合わせることが第一だから、親父にも言わないと。
俺は自分の部屋を出て行き、親父の部屋のドアをどんどんと叩き、ドアを開けて中に入った。
「なんだ、騒々しい」
「佐藤の追っているバレーボールの選手がもしかしたら捕まるかもというか、原稿は載らない事が決まる」
「荒木編集長は?」
「様子をみたいのと、ストックがあるって」
俺の言葉を聞いて、親父は渋い顔する。
「ストックを使う事になったら、納得はしないだろうな」
「まぁね。部数会議で勝ち取った数字に行くためにみんなも頑張ってくれているし、此処は荒木に踏ん張ってもらわないと。明日9時にスポーツ部で方向性を話すし、また報告する」
「分かった」
俺は親父の部屋を出て行き、自分の部屋に戻ってベットにドサっと横になった。
佐藤もスポーツ部の皆は“休刊”を阻止する為に毎日頑張っていて、それが此処に来て編集の神様って奴は試練を与えてくれるね。
先ずは仁や佐藤にこの試練を乗り越えてもらわないと。そう思い、俺は明日に備えた。
「今日もお疲れ。また明日ね」
「はい。あ、あの…」
「ん〜?」
「本日のお昼…、嬉しかったです」
橘は肩にかけているバックの紐をきゅっと握った。
「いーって。この後は荒木とじーっくり話すから、もう行って良いよ」
俺は特大スマイルで言うと、橘は体をビクッとさせた。
「で、では失礼します」
「うん、またね〜」
橘が出て行き、俺は椅子の背もたれに体を沈ませる。
「しっかし、仁のモテっぷりは相変わらずだな」
あいつが入社した時、仁抜きの水瀬だけが出た歓迎会でも仁の話題が凄かったし、それから毎年新入社員の一部で仁に惚れる女性社員がいるけど、当の仁はその事に全く興味ない感じでいる。
今年は可愛い部下の宝条さんと橘だけの新入社員だけど、先に惚れたのは橘か…、宝条さんは仁と10も離れているし、年上好きとはならないかも。
専務室のドアがノックされて開いて佐藤が入ってきて、手には幾つかの紙束があって俺の前に立った。
「6月号の原稿で、高坂専務に一度読んで欲しいです」
「良いよ〜」
俺は佐藤から紙束を受け取り、黙読するとあるバレーボールの選手を追いかけていた事が丁寧に書かれていて、いかにこの選手を読者に伝えたいかが言葉に表れている。
「佐藤のこの選手とバレーボールに対する気持ちが込められて、読後感がとても良いね」
「ありがとうございます!8月号もこの選手が出てくるので、両方ともページを減らす事が無いように田所とぶつかります」
「どんどんぶつかってよ」
「はい!読んでいただいて、ありがとうございました!失礼します」
佐藤は嬉しそうに紙束を抱えて専務室を出て行き、入れ替わりで水野が入ってきた。本人はちらっと橘の席に視線を送り、また戻して俺の前に立つ。
「高坂専務にフィードバックをお願いしても良いですか?」
「良いけど、俺、荒木よりキツく採点するよ?」
「覚悟はしてます」
水野はデニムのポケットから録音機を取り出し、俺の机の上に置いて再生ボタンを押した。
録音機からは水野と相手の声が流れるけど、よく聴いて見ると相手の声が落ち着くというよりも機械的に答えているというか感情が伝わってこないし、水野はその相手の声の状態に気付いていないぽい。
時折雑談も交えているけれど、うーん、まだ田所の領域に行ける前に、水野が佐藤にでさえ劣っていると感じ、俺はまだ取材が流れている録音機の再生ボタンをブチっと停止して、水野に顔を向ける。
「マジで駄目だね」
「…………すいません」
「相手の心情が全然伝わってこないし、水野だってサッカーの経験があるんだから、もっと相手の気持ちを引き出せる事が出来る筈だよ」
俺がそう伝えると、水野は両手をぎゅうっと強く握った。
「やってみせます。また聴いて貰えますか?」
「うん。いつでも良いし、田所のページを減らすくらい挑んでみてよ」
「勿論です。この後、田所さんと飲むんで本人の取材の声を聴かせて貰います」
「うん、良いと思う」
「はい!失礼します」
水野は一礼し専務室を出て行き、暫く1人で過ごし、そろそろ帰って家で仁に連絡するかと思い、専務室を出て行くと、丁度仁と会った。
藍山駅に向かいながら今日の仁の橘に対する態度に注意すると、本人は口では『分かった』っているけど、前髪のせいで表情がよくわかなんないな。時々最近の仁の様子も気になるし、かといって聞いても言わないタイプだから困ったもんだ。
其々藍山駅でタクシーを捕まえて実家に戻り、自分の部屋に入ってスーツをバサっと脱いで、ネクタイをほどき、ふぅっと息を吐く。
就寝用の服に着替え、ベットでゴロンと横になりながらスマホのニュースアプリを開いて、各ジャンルのニュースを読んでいくと、スポーツのページにトップで見出しが出ていたのは佐藤が追いかけているバレーボールの選手についてだ。
俺は起き上がってじっくりと読むと、まずいな…、この内容からするに佐藤の原稿の結末が見えてきて、即仁にニュースの事をメッセージで送ると既読になる。
警察に知り合いがいるし、ちょこっと話しを探りたいし、青木印刷所に提出する日程が迫っているので明日はスポーツ部で緊急会議だ。
俺はすぐ仁に電話をかけて、明日9時に会議室に全員集まるように言い、警察の知り合いにも電話をかける。
『詳細は言えないが、先ずは任意で連れて行くかもな』と知り合いがそう言い、任意であっても一度ついた悪いイメージを覆る事って無いに等しい。
確か仁は原稿のストックはあると言っていたので青木印刷所の提出に間に合わせることが第一だから、親父にも言わないと。
俺は自分の部屋を出て行き、親父の部屋のドアをどんどんと叩き、ドアを開けて中に入った。
「なんだ、騒々しい」
「佐藤の追っているバレーボールの選手がもしかしたら捕まるかもというか、原稿は載らない事が決まる」
「荒木編集長は?」
「様子をみたいのと、ストックがあるって」
俺の言葉を聞いて、親父は渋い顔する。
「ストックを使う事になったら、納得はしないだろうな」
「まぁね。部数会議で勝ち取った数字に行くためにみんなも頑張ってくれているし、此処は荒木に踏ん張ってもらわないと。明日9時にスポーツ部で方向性を話すし、また報告する」
「分かった」
俺は親父の部屋を出て行き、自分の部屋に戻ってベットにドサっと横になった。
佐藤もスポーツ部の皆は“休刊”を阻止する為に毎日頑張っていて、それが此処に来て編集の神様って奴は試練を与えてくれるね。
先ずは仁や佐藤にこの試練を乗り越えてもらわないと。そう思い、俺は明日に備えた。