離れた後の恋の仕方
◇佐藤のこと1
翌日、俺は出勤前に自分の部屋で佐藤のスマホに連絡する。
「ニュースを見ただろ?」
『見ました』
電話口では顔が見えないからどんな表情でいるか…、声が落ち着き過ぎていてわからない。
「四つ葉に来れる?」
『いえ…、気持ちの整理がつかないので家にいます』
「そっか…、これから荒木達と話し合うから家にいて」
『………い。失礼しま…す』
佐藤から電話を切られ、最後の声は佐藤の中で原稿のことをよぎったのだろうな。俺は小さく息を吐き、仁達を待たせる訳にもいかないから四つ葉へ向かった。
そして佐藤抜きでの会議室で今後の話しをし始め、俺は青木印刷所への締め切りが迫っている中で佐藤の原稿を待つよりも確実に発売が出来る様に方向性をそっちに向けようとすると、ストックの候補者である水野と田所が強く反対をし、仁も佐藤の原稿で行きたいと強く言う。
「お前、一旦廊下に出て頭を冷やせ」
話し合う中で俺も感情が先に出てしまい、仁を廊下に追い出し、会議室の空気を最悪にしてしまった。
俺は改めてスポーツ部の皆に方向性を伝えようとするとタウン情報部の九条ちゃんが慌てた様子で会議室に入ってきて、自宅にいるはずの佐藤が2階の編集部に来て、原稿をビリビリに破いたそう。
佐藤の奴…、自分の時間を削ってまで取材して、それに対応してくれた人達の言葉を破るなよ。
田所と宝条さんが2階の編集部に行くのを見届け、さらに中畑と山田も出て行き、俺は上座の椅子に座ってスポーツ部の皆に顔を向ける。
「佐藤の原稿、皆は待てる?」
「俺は佐藤さんが戻って来ると信じているので、待ちます」
俺の問いに一番で答えたのはB班の高橋で、高橋は入社した時からずっと佐藤と共にB班を引っ張っていて、『俺が四つ葉にいても、高橋は俺を抜いてくれると思います』って以前佐藤とサシで飲んでいた時に話しをしていたっけ。
こんなに思ってくれる同僚がいて佐藤は幸せだし、仁も長年佐藤の事を見守っていたから原稿を落としたくない気持ちは分るけど、こういった感情論は難しいな。
田所と宝条さん達が戻ってきて、宝条さんが手にしていたセロテープだらけの紙束を受け取り、俺はその原稿を黙読すると、佐藤が以前話していた原稿で、よくもまぁビリビリに破いちゃって。
ただこの原稿には問題の選手の事が書かれてあって、残酷だけど『読者に読まれる事は無い』と判断するしか無く、その言葉を聞いた高橋は凄くショックを受けた表情でいて、近くに座る水野は下唇をギュッと噛みながら原稿にペンを走らせている。
仁の様子が気になるので田所と高橋に後を託して俺は会議室を出て行き、一旦専務室に行き、ドアを開けた。
「ちょ~っと荒木と話しがあるから、お昼が終わるころに戻るね」
「かしこまりました」
橘にそう言い、俺は階段を降りて四つ葉のビルを出て仁を探し出て、少し離れた所にいた仁を見つけ、つかつかと近づいて仁の後頭部を思いっきり叩いた。皆の前で意固地になるし、冷静になれよと思う。
「佐藤のバレーボールにかける情熱をずっと見ていたし、せめて疑惑になるなら6月号以降に発覚が良かった」
「こればっかりは運だし、嘆いてもどのみちあの選手の事は世間に広まるし、ストックの差し替えが効くこのタイミングが良かったんだ」
俺は冷静に現状を話すと仁は下唇をギュッと噛んで、前髪が目にかかっていても今なら仁の感情が分かるから、俺は右手を仁の頭にポンっと置いた。
「泣いていい」
「……」
「今は俺しかいないから」
「……ありがと」
仁の頬に大きな雫がボロボロと伝って白シャツに落ち、その雫は白シャツに染み込んで消えていく。こんなにも仁の感情を出した事を見たのは初めてだし、編集長として“休刊”を阻止する為に奮闘しているなかでの出来事だから、気持ちの整理も大変だろう。
俺がまだ編集部にいる時代だったらもっと色々手立てを考えられるけど、今は仁がスポーツ部を引っ張っていく立場だから此処は仁と佐藤に任せるしかない。
仁が何度も鼻を啜り、少しだけ落ち着いた状態になり、2人で【もりや】でお昼を食べることにした。
「これ、佐藤から渡された」
仁が黒パンツのポケットから取り出したのは『退職願い』の封筒で、佐藤は此処まで精神的にきてたのか。でも受け取るわけにもいかないし、破くなら原稿じゃなくて、“これ”だろ。
【もりや】でお昼を食べて、食後に出された今川焼がとても美味しく、俺の隣に座る仁はその今川焼の場所を店員さんに教えてもらい、俺達はスポーツ部の分を購入し、会議室で原稿を進めている皆に差し入れた。
この今川焼の味は沈んだ気持ちを和らいでくれる温かさがあって、一美にもこの今川焼を食べさせてあげたいな。
食べ終わって会議室を出て専務室に戻ろうとしたけど、留守を守ってくれている橘を労りたくてもう一度今川焼のお店に向かい、橘の分を買って四つ葉に戻り、専務室に入る。
俺は橘の前に立ってホカホカの今川焼が入った紙袋を差し出したら、当の本人はきょとんとした。
「えっと…、これは?」
「今川焼だよ。さっき仁とお昼を食べた時に店員さんが勧めてくれて凄く美味しかったから、いつも留守を守ってくれる橘に」
俺は紙袋を机の上に置いて自分の席に戻り、橘は紙袋をそっと手に取った。
「出来立てが一番だから、どーぞ」
「ありがとう…ござい…ます」
橘は紙袋から今川焼を取り出して、一口頬張ると目を細め、俺はそれを一目みてからまた自分の仕事に取り組み、青木印刷所に出す迄に待てるのが3日が限度だし、仁達がどういう風に纏めてくれるかだ。
「ニュースを見ただろ?」
『見ました』
電話口では顔が見えないからどんな表情でいるか…、声が落ち着き過ぎていてわからない。
「四つ葉に来れる?」
『いえ…、気持ちの整理がつかないので家にいます』
「そっか…、これから荒木達と話し合うから家にいて」
『………い。失礼しま…す』
佐藤から電話を切られ、最後の声は佐藤の中で原稿のことをよぎったのだろうな。俺は小さく息を吐き、仁達を待たせる訳にもいかないから四つ葉へ向かった。
そして佐藤抜きでの会議室で今後の話しをし始め、俺は青木印刷所への締め切りが迫っている中で佐藤の原稿を待つよりも確実に発売が出来る様に方向性をそっちに向けようとすると、ストックの候補者である水野と田所が強く反対をし、仁も佐藤の原稿で行きたいと強く言う。
「お前、一旦廊下に出て頭を冷やせ」
話し合う中で俺も感情が先に出てしまい、仁を廊下に追い出し、会議室の空気を最悪にしてしまった。
俺は改めてスポーツ部の皆に方向性を伝えようとするとタウン情報部の九条ちゃんが慌てた様子で会議室に入ってきて、自宅にいるはずの佐藤が2階の編集部に来て、原稿をビリビリに破いたそう。
佐藤の奴…、自分の時間を削ってまで取材して、それに対応してくれた人達の言葉を破るなよ。
田所と宝条さんが2階の編集部に行くのを見届け、さらに中畑と山田も出て行き、俺は上座の椅子に座ってスポーツ部の皆に顔を向ける。
「佐藤の原稿、皆は待てる?」
「俺は佐藤さんが戻って来ると信じているので、待ちます」
俺の問いに一番で答えたのはB班の高橋で、高橋は入社した時からずっと佐藤と共にB班を引っ張っていて、『俺が四つ葉にいても、高橋は俺を抜いてくれると思います』って以前佐藤とサシで飲んでいた時に話しをしていたっけ。
こんなに思ってくれる同僚がいて佐藤は幸せだし、仁も長年佐藤の事を見守っていたから原稿を落としたくない気持ちは分るけど、こういった感情論は難しいな。
田所と宝条さん達が戻ってきて、宝条さんが手にしていたセロテープだらけの紙束を受け取り、俺はその原稿を黙読すると、佐藤が以前話していた原稿で、よくもまぁビリビリに破いちゃって。
ただこの原稿には問題の選手の事が書かれてあって、残酷だけど『読者に読まれる事は無い』と判断するしか無く、その言葉を聞いた高橋は凄くショックを受けた表情でいて、近くに座る水野は下唇をギュッと噛みながら原稿にペンを走らせている。
仁の様子が気になるので田所と高橋に後を託して俺は会議室を出て行き、一旦専務室に行き、ドアを開けた。
「ちょ~っと荒木と話しがあるから、お昼が終わるころに戻るね」
「かしこまりました」
橘にそう言い、俺は階段を降りて四つ葉のビルを出て仁を探し出て、少し離れた所にいた仁を見つけ、つかつかと近づいて仁の後頭部を思いっきり叩いた。皆の前で意固地になるし、冷静になれよと思う。
「佐藤のバレーボールにかける情熱をずっと見ていたし、せめて疑惑になるなら6月号以降に発覚が良かった」
「こればっかりは運だし、嘆いてもどのみちあの選手の事は世間に広まるし、ストックの差し替えが効くこのタイミングが良かったんだ」
俺は冷静に現状を話すと仁は下唇をギュッと噛んで、前髪が目にかかっていても今なら仁の感情が分かるから、俺は右手を仁の頭にポンっと置いた。
「泣いていい」
「……」
「今は俺しかいないから」
「……ありがと」
仁の頬に大きな雫がボロボロと伝って白シャツに落ち、その雫は白シャツに染み込んで消えていく。こんなにも仁の感情を出した事を見たのは初めてだし、編集長として“休刊”を阻止する為に奮闘しているなかでの出来事だから、気持ちの整理も大変だろう。
俺がまだ編集部にいる時代だったらもっと色々手立てを考えられるけど、今は仁がスポーツ部を引っ張っていく立場だから此処は仁と佐藤に任せるしかない。
仁が何度も鼻を啜り、少しだけ落ち着いた状態になり、2人で【もりや】でお昼を食べることにした。
「これ、佐藤から渡された」
仁が黒パンツのポケットから取り出したのは『退職願い』の封筒で、佐藤は此処まで精神的にきてたのか。でも受け取るわけにもいかないし、破くなら原稿じゃなくて、“これ”だろ。
【もりや】でお昼を食べて、食後に出された今川焼がとても美味しく、俺の隣に座る仁はその今川焼の場所を店員さんに教えてもらい、俺達はスポーツ部の分を購入し、会議室で原稿を進めている皆に差し入れた。
この今川焼の味は沈んだ気持ちを和らいでくれる温かさがあって、一美にもこの今川焼を食べさせてあげたいな。
食べ終わって会議室を出て専務室に戻ろうとしたけど、留守を守ってくれている橘を労りたくてもう一度今川焼のお店に向かい、橘の分を買って四つ葉に戻り、専務室に入る。
俺は橘の前に立ってホカホカの今川焼が入った紙袋を差し出したら、当の本人はきょとんとした。
「えっと…、これは?」
「今川焼だよ。さっき仁とお昼を食べた時に店員さんが勧めてくれて凄く美味しかったから、いつも留守を守ってくれる橘に」
俺は紙袋を机の上に置いて自分の席に戻り、橘は紙袋をそっと手に取った。
「出来立てが一番だから、どーぞ」
「ありがとう…ござい…ます」
橘は紙袋から今川焼を取り出して、一口頬張ると目を細め、俺はそれを一目みてからまた自分の仕事に取り組み、青木印刷所に出す迄に待てるのが3日が限度だし、仁達がどういう風に纏めてくれるかだ。