離れた後の恋の仕方
会場について受付を済ませて中に入り、おぉ、やはり大手は気合いの入れ方が凄いなぁと装飾物を見ながら歩き、先ずは挨拶周りだ。

橘と一緒に1人づつ名刺交換と決まった挨拶と雑談をし、時々飲み物を飲んで喉を潤してまた挨拶を繰り返す。

「それではこの度、創刊を手掛け、新しく編集長に就任した後藤からお言葉を頂戴します」

司会者によって記念パーティーが始まろうとし、壇上に男性の後藤、その上司、雑誌のメインモデルとして専属契約をした女性のモデル達が上がって話をする。

専属モデルの1人が俺の方に顔を向けるとニコッと微笑むので、俺も営業スマイルとして微笑み返してみた。

あー…、あの笑顔をされるとこの後の展開が直ぐ浮かんで、小さな溜め息を吐く。

「橘はこの雑誌で気になるファッションとかある?」
「私は事務系のお仕事に就くのが多いので、このファッション雑誌のジャンルは苦手です」
「はっきりと言うね。でも自分の好き嫌いをはっきりとするのは良いし、読者がどういった服を欲しいかいつも水瀬達がリサーチしているから、今度飲み会で意見交換をすると良いよ」
「『Clover』のお役に立てるのでしたら」
「お願いね。お、話は終わったみたいだし、あそこの軽食をつまんでから四つ葉に戻ろうか」
「はい」

橘と一緒に会場の奥に設置されている軽食コーナーに行き、小腹が空いていたからパンと野菜が挟んである軽食を幾つかバクッと食べ、橘は果実の飲み物を飲んでいる。

「高坂君」

背後から声をかけられ振り向くと、後藤と先程俺に微笑みかけたモデルが立っており、あー…、折角の食事が。

「この度は創刊おめでとう」
「ありがとうって、その口元のガーゼ、どうしたの?」
「ちょ~っとね」
「相変わらずその返し方は君らしいけど。高坂君の所の最近の雑誌はどう?」
「浮き沈みは激しいけど、うちの雑誌を読んで服を買いに行く読者の声を聞けるのは嬉しいよ」
「途中から編集長が変わってから雑誌の雰囲気が変わったよね」
「まぁね。初代の編集長もよくやってくれたけど、今の編集長がすげぇ頑張ってくれているし、メンバー達もいい奴が揃ってきてるから、これからもうちの雑誌を盛り上げて欲しいね」

後藤と雑談を進めているとその隣に立つモデルは、俺を興味津々で見てくる。

「今度開かれるブランドのファッションショーはうちの雑誌が協賛しているんだけど、良かったら来てよ。彼女が君と歩きたいんだって」

出た、ファッションショーってテレビ局や報道陣が多くいるし、翌日にバンバン放送されるんだよな。

四つ葉を売るならショーの一つでも参加するべきだけど、もし一美が何かの拍子でテレビ放送を観るかもしれないし、俺の隣に立って欲しいのはこのモデルではないんだよね。

「誘ってくれて、ありがとう。でも俺が隣に立つより後藤が立たないと、彼女の魅力を存分に皆に伝えられないでしょ?」
「そう言うと思った。またね」
「ああ」

後藤はモデルの背中に手を添えて別の参加者達の輪に向かっていき、俺ははぁっと息を吐く。

「高坂専務が会場から早く退出されたいお気持ちが少し分かりました」
「でしょ?って事で四つ葉に帰るよ」
「はい」

橘と共に会場を後にし、1階のフロントでタクシーを手配をしてもらい、それに乗って四つ葉に戻り、専務室に入った。

「お疲れ様でした。この後は営業課の方と会議室で書店周りについての会議です」
「りょーかい。橘はここで待ってて。その間に何かあれば遠慮なく会議室に来ていいから」
「はい」

俺は専務室を出て話し合いに使う会議室に行き、営業の書店周りを頑張ってくれている社員の話を聞く。

「駅前の幾つかの商業ビルに其々書店がありますが、来店する人の減少があるって言葉が多いです」
「女性誌のスペースは、月刊誌よりも雑誌に付属品が着いた本がスペースを広く取っている印象を受けました」
「タウン情報系のスペースは現状変わらず、書店によっては入り口を入って正面か、女性誌のスペースの近くに移動している所もあります」

今は付属品を付けるのが主流になっているし、付けずに発行しているのってうちの『Clover』と後藤が創った雑誌と他一社だけだよな。

水瀬が『Clover』の編集長になって5年で内容を少しづつ変えて行ったことで売り上げが上に上がっていく時と苦戦をしている時もあって、ここらへんで水瀬と副編がどう盛り上げていくかだな。

姫川は学生時代からアルバイトでうちに来てかなり長いけど、タウン情報一筋でやっていて、九条ちゃんが異動してきてからも2人で支えてくれるのが超助かってる。

「スポーツ雑誌のスペースですが、元々の幅が他のジャンルとは狭く取っているのでこれ以上広がる事は現状ないと書店側が仰ってます」
「そうなの?」
「ええ。広がる事がある時は野球の開幕時期と、サッカーやテレビ中継があるスポーツが大きな大会の時ですと」
「成る程ねぇ」

営業の話を聞く限り、スポーツのジャンルはテレビ中継の影響も出てくるのか。それだと仁から聞いている田所のサマーリーグもテレビ中継が少ないって言っていたから、田所本人がこの辺をどうするかだな。

「いつも書店周りで現状を知らせてくれてありがとう。少しでもうちの本を置いてもらえそうな場所があったら、どんどん営業をかけてね」
「任せて下さい!」

営業達のやる気があって、良いねぇ。

さ、会議を終えてお昼でも食べるか。
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