八年越しの初恋、回収します。〜私のトリコになった部下に、八年前から溺愛されています〜



※

「瞳子さん! おかえりなさい!」

家に帰ると、ものすごく上機嫌で元気な朝倉くんに出迎えられた。
いつも以上に機嫌がいい。
玄関に入った私を見るなり、まるで待ちわびていた子供のような笑顔を向けてくる。

「ちょっと、こっちに来てください!」
「え? な、なに?」

玄関を入った途端、腕を取られた。
そのままリビングを抜けて、朝倉くんの部屋へと連れてこられる。あまりにも勢いがあるので、私は何が起こっているのかわからないまま、彼についていくしかなかった。

「な、なに、どうしたの?」

部屋の前で、彼がくるりと私に向き直る。
背中で部屋の中を隠したまま、なぜか得意げな顔をしている。

そして、私の手を引きながら、ゆっくりと部屋へと入っていった。

「早く瞳子さんに見せたくって」
「見せたいって……?」

朝倉くんが、もったいぶるように両手を広げる。

その先には──。

「じゃ──ん。ダブルベッドです!」

「……え?」

部屋の中央に、大きなベッドが設置されていた。
一瞬、何が変わったのかわからなかった。
けれど、よく見れば、今まで置かれていたシングルベッドが二台、ぴったりと並べられている。

「え……李人のベッドは? 買い直したの?」

思わず、声が震えた。

李人が使っていた部屋には、もう朝倉くんの荷物が運び込まれている。
だからこそ、いつの間にこんなことをしたのかと驚いてしまった。

「いいえ。瞳子さんと僕のシングルベッドをくっつけました。これで一緒に寝られますね!」

朝倉くんは嬉しそうにベッドを指差した。
まるで、とても素晴らしい発明をしたかのような顔をしている。

「もしかして……これをやるために直帰したの?」

「その通りです!」

迷いのない返事だった。

「寝室が別々では気軽に触れ合えませんから、今夜のために、僕は頑張りました♡」
「そ、そう……」

そこまで言い切られると、何も言えなくなる。
私は大きなベッドを見つめてから、嬉しそうにしている彼へ視線を戻した。

「……あ、ありがとう。大変だったね」

結局、彼の純粋な気持ちに対して、私は労うことしかできなかった。
朝倉くんは、私が喜んでいると思ったのか、さらに嬉しそうに笑った。

こういうところは、本当にわかりやすい人だと思う。


朝倉くんは、夕食まで作ってくれていた。
二人で一緒に食卓を囲み、今日あったことを話しながら食事をする。
一緒に暮らし始めてから、こういう時間も少しずつ当たり前になってきた。

食事を終えると、私は立ち上がった。

「片付けは私がやるね。疲れたでしょうから、先にお風呂に入ってね」

そう言って、腕まくりをしてキッチンに立つ。

話し合ったわけではないが、彼はきちんと家事を分担してくれていた。
どちらが何をする、と細かく決めているわけではない。
分担すると、それがかえって負担になることもある。
だから私たちは、できる方がやる。

朝倉くんが料理をしてくれた日は私が片付けるし、私が疲れているときは、彼が代わってくれる。

(朝倉くんとは、こういうところが阿吽の呼吸なのよね)

そんなことを思いながら、順調に皿を洗っていたら──。

にゅうっと腕が伸びてきて、後ろから抱きしめられた。
もちろん、朝倉くんに。

「お風呂は?」

「待ちきれなくなって……」

耳元で囁かれて、私は思わず肩を揺らした。

「瞳子さんは、どうして我慢できるんですか?」

拗ねた子供のように語尾を上げる。

「何を?」

わかっているのに、あえて聞き返した。

「だから……僕とのセックスです。瞳子さんは……僕を欲しがらない」

彼の熱い息が耳元にかかる。
思わず、片目をつぶってしまった。

「ち、違う……よ」

そう答えたものの、声に力が入らない。

朝倉くんの右手がTシャツの中にもぐり込み、私の身体に触れる。
その手がゆっくりと動き出すと、耳元にさらに熱い朝倉くんの吐息がかかった。
それだけで、身体が敏感に反応してしまう。

私はどうしていいのかわからず、少しだけ遠い目をした。

「瞳子さん、僕としたいですか?」

色気のある声と熱のこもった吐息に、頭がくらくらしてくる。

「う……うん」

情けないほど小さな声で返事をすると、朝倉くんの表情がぱっと明るくなった。

「嬉しい……その気になってもらえて」

そう言って、私を抱きしめる腕に少しだけ力を込める。

「では、その前に……」

「……⁈」

何かを思い出したように、朝倉くんの反対の腕が動いた。

そして次の瞬間──。

例のA4用紙が、目の前に突きつけられた。

「続きはこの署名の後で!」

「……は?」

あまりにも予想外の言葉に、私は思わず目を見開いた。

さっきまでの甘い空気が、一瞬で別の意味に変わってしまった。








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