八年越しの初恋、回収します。〜私のトリコになった部下に、八年前から溺愛されています〜



広い空間が、しばし無音になる。
誰も動かない。

(──魔法? それが、彼と母親の関係を決裂させたきっかけなの?)

墓参りの時に、朝倉くんが教えてくれなかった名前の謎。
彼が「呪い」と言っていたものの正体。

一体、美麗さんは息子に何をしたというのだろう。

ごくり、と喉が鳴る。

朝倉くんが、不愉快そうに顔を歪めた。

「瞳子さん、帰りましょうっ! 久しぶりに再会して思い出しました。母は、人の心に土足で入り込んで、踏みにじる人ですっ!」

黙って座っていた私の腕を取り、立ち上がらせようとする。

「待ってっ。話し合いましょう。そのために来たのだから」

私は取られた腕を逆に引っ張り、彼をその場に引き留めた。

そんなことはもうどうでもいい。
そう訴えるように、彼が苦しそうに眉を下げる。

(朝倉くん……)

その表情を見て、無性に胸が痛んだ。

きっと、彼にとって母親と向き合うことは、私が想像する以上につらいことなのだろう。
五年間、距離を置いていた理由も、今なら少しだけわかる気がした。

それでも、ここまで来たのだ。
私は彼と一緒に、この家に向き合いたかった。

コツコツと床を鳴らしながら、美麗さんが近づいてきた。
変わらず、その表情には余裕が浮かんでいる。

「祐二の気持ちはわかったわ。私が反対しても、結婚は諦めないのね」

「はい。私たちは結婚をします。あなたに何をされようとも」

きっぱりと言い切る朝倉くん。

この二人は似ている。

(弱さを見せないところも、絶対に引かないところも)

決して視線を逸らさなかった美麗さんが、ふっと力を抜いた。
そして、次に私を見据えた。

「それなら、瞳子さんから結婚を辞退してもらえばいいのね?」

「……はい?」

理解不能。
でも、この母親なら、あらゆる手段を使って私をひれ伏させようとしてくるだろう。

息子から絶縁を宣言される瀬戸際でも、自分に絶対的な自信を持つ。
まるで女王様のようだった。

(これが……美麗さんの本当の姿なの?)

私は、美麗さんという人間を測りきれない。

だけど、私の目的ははっきりとしている。

(私は何を言われても、美麗さんに朝倉くんとの結婚を認めてもらう!)

顔を引き締めた。

「私と祐二さんの愛は盤石です。何があっても」

声は迷わなかった。

すると、美麗さんは盛大に眉を吊り上げた。

「度胸だけは一級品なのね。それなら、朝倉家の嫁にふさわしいか試しましょう」

腕を組みながら、軽く口角を上げて微笑む。

「試す? 何をですか?」

「この家に嫁ぐなら、それなりの才能が必要なのよ。だから、自分の無能さを認めたら、あなたは潔く身を引きなさい」

美麗さんが私を指差す。

「いいわね?」

にやりと笑う、その余裕。
まるで、私が敗北することなど最初から決まっていると言わんばかりだった。

(こうなれば、受けて立つしかないじゃないの)

これはピンチではない。
むしろ、チャンスだ!

「望むところです」

本当は、胸の奥が震えている。
怖い。
美麗さんが何を仕掛けてくるのか、想像もつかない。
自分にできることなのか、それすらわからない。

けれど、それ以上に、どこかワクワクしている自分がいた。

これを乗り越えれば、美麗さんは私たちの結婚を認めてくれるかもしれな
そう思うと、不思議と力が湧いてきた。
だから私は、快く受け入れた。

「瞳子さんっ、煽りに乗る必要はありません!」

朝倉くんが狼狽える。

「大丈夫。美麗さんに認めてもらう、いい機会よ」

私は彼の手を握り、そう伝えた。

重なった手に、美麗さんの冷たい視線が注がれる。
その視線に気づいても、私は手を離さなかった。

「牧野瞳子っ、さっさと私に付いてきなさい!」

美麗さんがそう言って、廊下へと歩き始めた。

私は迷わず、その後を追った。

心配そうに見つめる朝倉くんと黒川さんも、私たちの後に続いた。







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