お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
 ディナー後、ホテルを出て夜風に当たる。
「寒くないか?」
「え、あ、……すみません」
 城高山先生は自分が羽織っていたコートを、ふわっと肩にかけてくれた。
 さり気ない優しさが嬉しい。
 こんなにも気遣いができるのに、何故かモテないなんて不思議だなぁ……。
「今日は……楽しかった」
 城高山先生のその一言が、胸に刺さった。
「また、誘ってもいいか?」
 その視線は、驚くほど真剣で。
 私はドレスの裾を、そっと握りしめる。
「……はい」
 そう答えた瞬間、
 私ははっきりと自覚してしまった。

 偽装恋人なんて、いつまでも続けられる関係じゃない。
 この人を、意識しないふりは、もうできない。
 ディナーは、思っていたよりもずっと穏やかに進んだ。
 料理はどれも美味しくて、会話も途切れなかった。

 彼は相変わらず不器用だけれど、私の話を途中で遮ることもなく、一つ一つ、きちんと聞いてくれる。
 それだけで、十分だった。
 当然のように私を家まで送ると言ってくれるし、断る理由もなかった。
 車の中は静かで、
 高級ホテルの余韻が、まだ身体に残っている。

 ……夢みたいだなぁ。
 そう思う一方で、胸の奥に拭えない違和感があった。

 ドレスの裾をそっと押さえながら、私は自分の育ってきた環境を思い出していた。

 安いスーパーの特売日。
 家計簿と睨めっこする母。
「もったいない」が口癖だった日常。

 城高山先生と一緒に居るのはお姫様になったみたいで素敵だけれど、私の世界じゃない。
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