お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
 車に乗って、城高山先生は何気ない会話をしながら運転している。
 ハンドルを握る横顔は余裕があって、私とは住む場所が違う人間だと、否応なく思い知らされる。

 自宅アパート前に着くと、私はシートベルトを外した。
「今日は……ありがとうございました」
 精一杯、いつも通りの声を出す。

「無理はしていないか」
 彼は最後まで、そこを気にする。
「大丈夫です」
 そう答えたけれど、本当は、心のどこかが追いついていなかった。
 車を降りて、玄関に向かう途中、ドレスの感触がやけに現実味を帯びる。

 似合ってると言われたけれど、……似合うことと、自分の居場所であることは別だ。

 振り返ると、車の中から彼がこちらを見ていた。
 その視線が、優しすぎて涙が出そう。

「……おやすみなさい」
 小さく手を振ると、彼も軽く頷く。
 部屋に入って、車が去っていくのを窓から見送ってから、私は深く息を吐いた。

 確かに、楽しかった。
 それなのに……この人の隣に立つ覚悟、私には、まだ足りない。

 玄関の灯りをつけながら、私はそっとドレスを脱いだ。
 高価な布地をハンガーにかけながら、胸の奥に残る違和感をまだ言葉にできずにいた。
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