お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
 唇が重なるまで、ほんの一瞬。
 でも、その間に、今日一日のすべてが詰まっている気がした。

 触れるだけの、静かなキス。
 深くはないのに、胸の奥がいっぱいになる。

 ベッドの上で向かい合っているだけなのに、距離が近すぎた。
 私が視線を逸らすと、指先がそっと顎に触れて、顔を戻される。

「逃げないで」

 声が低くて、さっきまでの甘えん坊が嘘みたいに落ち着いている。
 でも指は優しくて、強くはしない。

 額が触れて、吐息が混ざる。
 それだけで、胸の奥が熱くなる。

「……緊張してる?」

 聞かれて、私は小さく頷く。
 すると彼は少し困ったように笑って、額にキスを落とした。

「大丈夫だから」

 そう言いながら、頬、こめかみ、唇の端へと、ゆっくり。
 キスは浅くて、何度も確かめるみたい。

「やっぱり今日は理性に歯止めが効かない。今までよく、キスだけで我慢できたな……と自分を褒めたい」
 唇が離れたあと、彼が小さく笑う。
「うん」

 今度は、私からもう一度。
 さっきよりも、ほんの少しだけ長く。

 彼は驚いたように目を瞬かせて、それから優しく受け止めてくれた。
 額に、頬に、最後はまた唇に。

「小春……」
 囁く声が、近い。
 灯りを落とし、同じベッドに横になる。
 自然とお互いが無口になり、目を閉じて何度もキスをする。
 触れ合うだけではなく濃厚なキスに代わり、私はいつの間にか素肌が露わになる。
 優しく丁寧に絆され、忘れられない夜になった──
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