お試し婚のはずが、いつの間にか溺愛されています!~二度も婚約破棄された外科医は受付事務員に愛を捧ぐ~
「……なんか、現実感なくて」
 正直に言うと、彼は小さく息を吐いて、私の前に立つ。
「俺も」
 そして、少しだけ照れたように視線を逸らした。
「結婚式のあとまで、寝るだけなんて……やっぱり嫌だな」
 その言葉に、私まで顔が熱くなる。

「もう、夫婦なのに?」
「だから、だよ」

 彼は私の手を取り、指を絡める。
 強くは握らない。ただ、離れないと伝えるみたいに。

「でも、小春が大切すぎて、どうしていいか分からない」
 そんなことを、真顔で言うのがずるい。
「……私も」
 そう答えると、彼は少し安心したように笑った。

 ベッドの端に並んで腰を下ろす。
 距離は近いのに、ちゃんと間がある。

「ねえ」
「ん?」
「今日、ずっと綺麗だった」
 不意打ちだった。
 私は思わず俯いてしまう。

「今も?」
「今も綺麗だよ。もっと、俺の知らない小春を見せてほしい」
 彼はそう言って、私の額に、そっと自分の額を寄せた。
「緊張してる顔も、照れてるのも、全部」
 それ以上は言わない。
 でも、十分すぎるほどだった。
 しばらく、そのまま動けない。

「……愛してるよ、小春。キス、してもいい?」
 緊張して固まっている私に確認してくれるその優しさが、胸に沁みる。
 私は言葉の代わりに、そっと頷いた。

 彼の手が、私の頬に触れる。
 親指が、ゆっくりと輪郭をなぞった。
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