地元なじみ。
「今思えば……あの頃からもう、そうだったんだと思う」
そう言った早川くんは視線を一瞬下に逸らし、ふうっと小さく息を吐いたのち、また私を見た。
その目はいつも以上に優しい目で、トクンと心臓が鳴る。
「好きだよ、藤沢。ずっと」
車も人も通らない静けさの中、すごく穏やかな生ぬるい夏の風が通り抜ける。
街灯と家の光が、柔らかく辺りを照らす。
ずっと大好きな人からの、1番嬉しい言葉。
早く応えなければならないのに……
泣きそうな気持になって、こんな時に限って何も言葉が出て来ない。
「1年前のこととか……謝っても謝りきれないことだらけで。俺が悪いんだけど……」
「藤沢と話せない日々、藤沢が塾を辞めたショック、藤沢に会えない高校生活……想像以上にしんどくて」
口下手な早川くんからは信じられないくらいの言葉が、ゆっくりと紡がれていく。
「駅前に行くのにさっきの道を通るたびに、藤沢と会わないかなとか考えてばかりで。この前ここに1人で来るほどに、毎日頭の中は藤沢のことばっかりだった」
「こんな事になるまで、何も伝えられなくて……情けなくてごめん」
現実なのかと思うほどふわふわしているけれど、1つの言葉もこぼさないように、しっかり受け止める。
「さっき……知らないことが増えたって言ってたけど、俺も同じ」
「え……」
「自転車になったんだとか、いつもこんな感じで電車通学してるのかとか、三島と話すようになってるとか、林と同じクラスなんだとか……」
「だから、一緒にいたい。藤沢のこと、藤沢の時間……俺にちょうだい」
「藤沢、俺と付き合って」
言おうとしていた言葉を、欲しいと思っていた言葉を全部くれた。
これ程幸せなことってあるのだろうか。
緊張している場合ではない。
早く、幸せがこぼれ落ちてしまう前にちゃんと伝えないと。
「私も……ずっと……早川くんが好きだよ」
ずっと言えなかった言葉がようやく言えた。
「私こそ……何も言わずに辞めたりしてごめん」
「いやそれは……」
「高校も離れて会わなくなって、好きなのやめなきゃって何度も思ったんだけど……出来なかった」
堪えていた涙がこぼれてしまった。
「私……多分ずっとずっと、早川くんのこと好きでいるんだと思う」
「だから……これからもよろしくお願いします」
私の言葉が途切れたタイミングで、早川くんは私の頭に手を乗せ、自分の胸に抱き寄せた。
抱きしめられているわけではない。
顔が胸元に触れているだけ。
その手は私の頭を優しくポンポンとしている。
その距離感が何となく早川くんらしくて、また好きが増える。
「ありがとう……藤沢」