地元なじみ。

「朱莉」
「なま……」
「朱莉。ごめん、一旦ストップ」
「え」
「途中でごめん。けど、これだけ言わせて」

私のことを強く抱きしめたまま、話し続ける。


「さくら……は苗字」
「え……」
「佐倉っての。名前で呼んでるわけじゃないから。それだけは誤解しないで欲しい」

さくらちゃん……佐倉さん……?

早川くんの言っている意味が分かり、一気に恥ずかしさと申し訳なさがこみ上げてくる。
反射的に早川くんから体を離し、手で顔を覆いながらチラッと早川くんの方を見る。

「ご、ごめんなさい……勘違いして」
「いや……」
「ごめん。さっき言ったこと忘れて!私のことも藤沢でいいし……」

早川くんは慌てる私の髪をなでながら、すごく優しい顔で微笑む。


「ふっ、何でよ。呼ばせてよ……朱莉」

改めて早川くんの口から呼ばれる、自分の名前にドキッとしてしまう。

「朱莉。ごめん、遠慮しないで呼べばよかった」
「遠慮?」
「何つーか……呼びたいけど急に呼んだら変か、とか、ならいつから呼ぶのがいいのか、とか色々考えちゃってた」

そんな風に思っていてくれたことが嬉しい。
ちゃんと話すこともしないでモヤモヤしていた自分自身を心から反省する。


「……1つずつ、話していい?」

そう言って早川くんは私の髪をとかすようになでながら、話し始める。

「付き合ってること……俺も勝手に言ったら悪いかなって、わざわざ学校で言ってなかったんだけど。これからは言っていくから。いい?」
「うん……」
「言い訳になるけど……言わなかったのは他のヤツらに朱莉のこと認識させたくなかったのも……ちょっとあって」
「?」
「……朱莉さん……可愛いんです……よ」

予想していなかった突然の発言とその口調。
そして思いっきり照れている早川くんにつられて、私も照れてくる。

「中学の時の練習試合とか、この前のボーリングとか……みんな朱莉に興味津々で」
「そ、それは、早川くんが女子と話してるの珍しいからじゃ」
「いや、みんな可愛いって言ってて。紹介しろっていうヤツもいて」
「いやいや……」
「だから文化祭のことも……来てくれるのは嬉しいけど、乗り気じゃないところもあって。みんなの目に朱莉が止まって欲しくなくて。それで誘えなかった。つまらない嫉妬で結果的に傷つけて……ごめん」

早川くんはさっきまでの表情から一転して、申し訳なさそうな顔をしている。

名前のことは私が勝手に勘違いして八つ当たりしたのに、怒る素振りもなく受け止めてくれて。
他のことも私を想っての行動ばかりで。
それなのに今度は、私のことを傷つけたと悲しそうな顔をして。

そんな顔をさせたいわけじゃない。
愛おしくて、好きがあふれる。


気づけば、今度は私が早川くんを抱きしめていた。
< 186 / 189 >

この作品をシェア

pagetop