地元なじみ。

「ん~!完全復活!」
「よかったね!あかり、夏祭り楽しみにしてたもんね」

夏の終わり――今日は私の通う小学校のグラウンドで夏祭りがあって、梓ちゃんと一緒に来ている。
地域のために開催している小さなお祭りだけど、屋台も10店舗くらい出て、毎年楽しみにしているんだ。
だから、風邪が治って本当によかった……

「あかり~!あずさ~!久しぶり!」
「わぁ~みんな久しぶりだね!」

梓ちゃんとは夏期講習でほぼ毎日会っていたけれど、学校の他の友達とは約1か月ぶり。
自分たちの小学校での開催だから、周りの大体の人は知っている顔で、久々の再会に嬉しくなる。

「梓ちゃん浴衣可愛いね、似合ってる」
「えへへ、ありがとう!あかりも着てくればよかったのに」
「大丈夫、私は動きやすさ重視!」
「あはは」

梓ちゃん以外にも浴衣の子が結構いて可愛い。夏祭り!って雰囲気でいいな。
ワクワクドキドキしながら、私たちは屋台へ繰り出した。


夏祭りを楽しむこと1時間と少し。
もうすっかり日は暮れて、提灯の明かりが映える空模様になってきた。

梓ちゃんはまだ屋台巡りをしているけれど、私は病み上がりの影響か少し疲れてしまったので、校舎横にあるグラウンドを見渡せるちょっとした高台のコンクリートの部分座って1人でひと休み。
あまり人が来ない場所で、密かにわたしのお気に入りスポットなんだ。
生温かい夏の夜風を浴びながら、周囲の中でここだけ明るくて光が浮かび上がっているようなグラウンドをボーっと見る。

チカッ――

そんな時、私の洋服がグラウンドの光と同じように光った。
……いや違う、黄色のようなオレンジのような光が私に当たっているんだ。

「え……?」

その光がどんどん大きくなってきて不思議に思っていると、目の前に予想外の人が現れた。

「早川くん……?」

驚く私とは対照的に、無表情で近づいてくる。いや、ちょっと悪だくみを企てていそうな悪い微笑みの顔。
その手には懐中電灯。
なるほど、さっきの光の正体はこれか……そしてそれに驚いた私を見て満足そうに微笑んでいるのか……ちょっと悔しい。

光を当てることに満足したのか、早川くんは懐中電灯の電源を切って、1人分のスペースを空けて隣に座った。

「風邪っぴきが何してんの」
「なっ!も、もう治ったし!」
「ふーん」

早川くんの小学校と、ここは駅を挟んで反対側。だから、まさか今日来ているなんて思わなかった。

「この場所、学校内なの?」
「うん、小学校の一部なんだ。珍しいよね、傾斜に建ってるから、学校内でグラウンドを見下ろせるなんて」
「ふーん」

相変わらず続かない会話。
でも私は、この空気感が意外と嫌いじゃない。

「初めてでしょ?うちの学校来るの。この場所よくわかったね」
「さっきグラウンドで、大きい口開けてチョコバナナ頬張りながら、もう片手にフランクフルト持って、更に焼きそばの袋まで持ってる誰かさん見かけて」
「……待って!それ私だよね!?」
「ついて行けばもっと美味しい店あるのかと思ってついてきた」
「ないから!」

まさか見られていたとは……恥ずかしすぎる。
ふーっと息を吐きながら気持ちを落ち着かせる。
変な印象を持たれる前に誤解は解きたい。

「一応言っとくと、フランクフルトは梓ちゃんのを一瞬持ってただけで、この焼きそばは弟へのおみやげだからね!」
「弟?」
「うん、今日は家で待ってるから」
「へー」

また沈黙。
でも遠くで聞こえる盆踊りの音がBGMになり、気温が下がった夜風と相まってやっぱり心地よい。

ピコンッ

そんな空気をかき消すような電子音がしたと思ったら、早川くんがポケットからスマホを出した。
スマホ、持ってるんだ……いいな。

「平塚たちが探してるから行くわ」
「あ、うん」

平塚くんも来てたんだ。ってことは三島くんもいるのかな。相変わらず仲良いなぁ。

早川くんは立ち上がって、バッグから何かを取り出したと思うと私に近づいてきて、

スポッ

取り出したそれを私の頭に被せてきた。

「?」
「ふっ……」

えっ何?カチューシャ……?
?マークが浮かぶ私を見てか、早川くんは満足そうに微笑むだけで何も言わない。

「ちょ、ちょっと!」

流石に気になるので取ってみると、やっぱりカチューシャだった。
プラスチックでできた猫耳のデザインで、夏祭りでよく見るピカピカ光るカチューシャだ。

「何……これ」
「あげる」
「あ、ありがとう」

手元でカチューシャがピンク色に光っていて可愛い。

「……って違う!あげるってなんで……」
「くじで当たった」
「あの屋台のやつ?」
「そう、妹の好きなキャラのぬいぐるみあったから引いたけど、当たらなかったから」
「それでこれ?」
「うん」

早川くんがこのカチューシャ当てて、それをずっと持ってたって思うとちょっと面白い。
っていうか妹……いるんだ、初めて知ったな。妹のためにくじ引きするなんて、優しいお兄ちゃんじゃん。

「妹さんにあげればいいのに」
「家にある、それの黄色が」
「えっ、そうなの」

それなら、もらっちゃってもいいのかな……
せっかくだし、また着けてみる。

「ありがとう」
「ん」

さっきと違い、座っている私の前に早川くんが立ち、2人でまた無言でグラウンドを見る。
帰ろうと立ち上がったはずなのに、さっきより距離は近くなっているのが、なんか不思議。

平塚くんのことはいいの?とも思ったけれど、やっぱりこの沈黙が心地よいから何も言わなかった。

私の学校のお気に入りの場所に、早川くんといる。
変な感じだけれど、今日ここから見た夏祭りの景色を私はずっと忘れないような気がした。
そして、なぜかはわからないけれど、来年の夏祭りは浴衣を着ようかなと思った。

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