御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 ほどなくして出されたお酒をおっかなびっくり飲んだ私は、その飲みやすさに目を丸くした。

「……甘くておいしい」
「うちは濃いめだからなぁ。そこらへんの居酒屋で提供しているのとはわけが違うさ」
「そうなんですね。普段、あまり飲まないので……」
「それなら、飲みたいときはうちにくるといいよ」
「……ありがとう、ございます」

 バーテンダーの男性が温かい。
 隣にいる蓮と呼ばれた彼だって。突然泣き出す私を店に入れ、足の心配までしてくれたのだ。
 久々に無償の優しさに触れた気がして、悴んだ心が温かくなった。

「それで、改めて泣いてる理由を聞いてもいいですか? えー……っと、名前は……」
「星名千尋です」
「俺は九条蓮(くじょうれん)です。こっちはこの店の店主」
「千尋さん、よろしくね」

 いつの間にかグラスを磨いていた店主がウィンクする。
 父に見た目の雰囲気こそ似ていると思ったけれど、店主は私の父と違い、だいぶフランクな性格のようだ。
 どちらかというと堅物な父は、あまり多くを語らない。優しいけれど、その寡黙さから若い従業員に怖がられることもしばしばある。
 だけど父の人となりを知ると、みんな父のもとに集まってくる。父は小さな町工場の社長なりに、人を惹きつける魅力があった。

< 10 / 139 >

この作品をシェア

pagetop