御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「えっと、話すと長くなると言いますか……。その、重たい話になっちゃうので、あまりこういうところで話すべき内容ではないと思うんですけど……」
「どうかお気になさらず。ここは、すべてを吐き出す場所ですから」
「蓮は吐き出しすぎだけどな」
「いちいち、口を挟まないでくれ」
「……はいはい。ごゆっくり」

 店主が私たちの目の前にキャンドルを置く。
 カクテルの香りを楽しめるようにという配慮なのか、キャンドルからは特に匂いがしなかったけれど、ゆらりと不規則に動く炎は不思議と気持ちを軽くさせた。

「本当に、話してもいいんですか?」
「もちろん。怪我もさせてしまったし、話を聞くだけではお詫びにもならないと思いますが……」

 九条さんが頬杖をつき、こちらを見る。

 橙色の炎が彼の輪郭を撫でて、シャープな鼻筋を際立たせる。暗がりであっても、かっちりとワックスで固められた艷やかな黒髪と涼しげな目元は彼の美しさを際立たせた。
 美術品としてショーケースに入れて飾られていても違和感がないほどの美しさだ。
 よくよく見るとスーツも、頬杖をついた腕から見える腕時計も高級品であることは貧乏人の私でも一目でわかる。
 そんな彼に、これから話す内容を聞かせるのは忍びない。

 それでも私の言葉を真摯に待つ彼の瞳に、このまま応えないのも失礼ではないかと思い直す。

 私は一度アルコールで喉を潤すと、ゆっくりと口を開いた。

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