御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「は、離してください……。人に、見られます……」
「いい。千尋は俺の妻なんだから」

 ぽんぽんと優しく背中を押される。
 今日のためにおろした、オーダーメイドのスーツを汚してはならないと涙を我慢するも、彼の優しい手つきに絆されて、ぽろぽろと涙を零した。

「ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていい。千尋は悪くないよ」
「でも……」

 そっと体を離され、彼が私の頬を撫でる。
 腫れた頬に手を添え、そっとイヤリングのない耳たぶを指で撫でた。

「……誰にやられた」
「い、言えない、です……」

 優しい彼のことだ。きっと私が素直に名前を言えば、彼女のことを糾弾しにいくだろう。
 だけど、打たれたのには私にも理由がある。

 彼女を引き剥がそうとして突き飛ばすような形になってしまったこと。
 胸を張って蓮さんの妻なのだと言えなかったこと。

 もっと私がしっかりしていれば、こうはならなかったのだ。だから、彼に動いてもらうのは筋違いだ。

「イヤリング、壊れてしまってごめんなさい」
「そんなのは気にしなくていい。いくらでも買えるから。それよりも、千尋のことが心配なんだよ」

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