御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「それで、来週……でしたっけ?」
「なにか他に予定でもあるか?」
「いえ、ないので大丈夫です」
「そうか、よかった」

 彼がホッと息をつき、表情を緩ませる。

 彼からの誘いであれば断る理由もない。
 せっせと作りたてのシチューやサラダ、焼いたパンやパンに乗せるためのハムやチーズなどを盛った皿を運ぶと椅子に座った。

「旅行に行くのは久しぶりなので楽しみです」
「あまり、遠出はしなかったのか?」
「そうですね……。工場のこともありますし、家族で旅行はほとんど行ったことないです。まだ母がいた頃に、一度だけ箱根に行ったことがありますけど……」

 いまでもそのときのことを鮮明に思い出せる。
 はしゃぎすぎてお風呂でのぼせたこと。動けなくなるまでご飯を食べたこと。
 父と母には元気が良すぎると笑われたものだ。

 そのときはまだ工場の経営も傾いていなかった。幼かったのもあり、心から楽しめた。
 結局、そのときの一回しか家族旅行には行けなかった。

「……楽しい旅行にしよう」
「はい……!」

 元気に返事をして、熱々のシチューをスプーンですくう。
 彼も美味しいとおかわりまで申し出てくれて、私は上機嫌で彼の皿にシチューをすくった。

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