御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 じわりと瞼に薄い涙の膜が張る。
 耐えようとしたけれど、ぽろぽろと零れて彼の肩を濡らした。

「ずっと、ずっと苦しかったんです。結婚が決まったときから、この生活を始めたときから、私は蓮さんのことが、好き……だったから……」

 口に出したら、もっと愛おしい気持ちが溢れてくる。
 自分でもこれが愛の告白だとは気付かないまま気持ちを吐露したら、蓮さんが何も言わなくなってしまった。

「……あの、蓮さん……?」

 やっぱり、この気持ちは迷惑だったのではないだろうかと彼の顔を見上げる。
 だけど、彼は珍しく視線を彷徨わせていた。

「見ないで……。ニヤけそうだから」
「えっ……」
「千尋が俺のことを好きでいてくれていることはなんとなくわかっていたけど……、改めて思い知らされると……」

 恥ずかしいのか、彼がそっぽを向く。
 慌てる様子が可愛くて、私はつい彼の顔を追いかけてしまった。

「ふふ、蓮さん、可愛いですね」
「こら、あんまりからかうな」
「だって……!」
「むしろ、俺は千尋が可愛くて仕方ないよ」

 ぎゅむっと頬を掴まれて、唇が迫ってくる。慌てて目を閉じるも、しばらく待っても何も起きなかった。

「…………?」

 うっすらと目を開けば、ほとんど触れるか触れないかの距離で、彼が私を見つめている。

「そういうところ」

 と、一言囁かれて、そのままぴったりと唇が重なった。
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