御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 ――また、戻ってきちゃった……。

 手の中のハンカチを見つめる。
 きっと彼は見抜いていたのだろう。私がもうここへは来なくなることを。
 だから、きっと理由を与えてくれたんだ。

 あの店をいつでも心の拠り所にしていいと、言ってくれたような気がした。

「あつい……」

 じわりと頬が熱くなって、真冬なのに身体が火照る。

 こんなことをされたら、嫌でも意識が彼へ向いてしまう。

 この街に対する未練なんてこれっぽちもなかったはずなのに。
 たったいま、ここに残りたい理由ができてしまった。

 ――春まで数ヶ月もないのに……。

 握り締めたハンカチを丁寧に鞄にしまう。
 私は鞄を肩に掛け直すと、軽やかな足取りで駅へ向かった。
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