御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「次来るときは、ここのインターフォンを押してください。名前を言ってもらえたら開けますから」
「わかりました」

 ぺこりと頭を下げて、彼に背を向ける。

 彼はまたと言ってくれたけれど、もう来ることはないだろうな、と思う。
 彼にハンカチを返すという目的を果たしてしまったからだ。
 それに、春になれば一度実家へ戻ろうと思っている。いまの状態の父をひとりにはしておけなかった。

「星名さん」

 少し離れてから、彼に呼び止められて振り返る。
 彼は私のところまでやってくると、なぜかハンカチを差し出した。

「これ、やっぱり差し上げます」
「えっ」
「あなたに持っていてほしいので」

 手の平を包み込むようにハンカチを握らされて、反射的に受け取ってしまう。
 すぐ彼に返さなくては、と思ったけれど、そのときにはもう店の扉を開けるところだった。

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