御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
 彼と私は友だちとも呼べない関係だ。
 あのバーでだけ顔を合わせる不思議な関係。向こうが私を拒めば終わってしまう関係なのだ。
 それなのに、私は彼に会いたい一心で期待を込めてバーのインターフォンを押してしまう。

 実を言うと、あれから三度インターフォンを押した。
 一度目と二度目は彼に会えず、店主も彼が不在なのに店に入っても楽しくないだろうからと無理に入店を勧めなかった。
 そうして三度目で、やっと彼に会うことができた。
 なにやらとても忙しくしているようで、久しぶりに見た彼はとてもやつれていた。

 四度目に訪れたときも随分と疲れた顔をしていて、彼は珍しく店の外に立っていた。
 その日は雨で、軒先の小さなスペースに身を収めて煙草を吸っていた。
 彼は私と目が合うと、気まずそうに電子タバコをしまっていた。

「中は禁煙で。忙しくなると、つい手が伸びるんですよね」

 と呟く彼を見て、なんだか親近感がわいた。

 二人で店に入ると、店主が苦い顔で禁煙しろと小言を口にする。
 それに対して、彼は好きにさせろとぼやいていた。

 ――あぁ、やっぱり居心地がいいな……。

 はっきりと感情に名前がつかないけれど、彼のそばは居心地がいい。
 そう思っていたけれど、いま彼の顔がパッと思い浮かんで、私は自分の気持ちに気付いた。

 ――私は、彼のことが……。

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