御曹司の契約妻が本物の妻として愛されるまで
「えーっと……、一体なにが……?」

 私が寝ている間になにかあったのだろうか。わけがわからず答えを求めて蓮さんを見る。
 彼はそっぽを向きながら、してないから、とひと言呟いた。

「みたもん、蓮もひみつっていったもん」
「だから、あれは……」

 彼が困ってガリガリと頭をかく。
 もし、楓くんの言っていることが本当だとしたら……と想像して顔に熱が集まった。

「……」
「…………」
「さ、楓。そろそろ行こうか」

 蘭さんがにっこりと笑って楓くんを抱きかかえる。
 私たちはというと、ろくに目も合わせられぬまま楓くんに手を振った。

「ばいばーい」
「うん、またね」

 ばたんと扉がしまって、静寂に包まれる。
 しばらく、そうして黙りこくっていたけれど、唐突に蓮さんが当たっただけだから、と吐き捨てるように言った。

「起きたときに千尋の頭が近くにあったから、髪に口が当たっただけ。それを楓が見ていたみたいで」
「そう、だったんですね……」

 この話は終わりだと言わんばかりに彼がリビングへ戻っていく。

 きっと彼の説明にはそれ以上も以下もないのだろう。

 だけど自然と口角が上がってしまって、今だけは彼に顔を見られなくてよかったと思ってしまった。
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