【番外編】あなたが白制服に着替えたら、それが愛のはじまり
※
草木も眠る丑三時。
柊慈の横で眠る夏帆の肩をたたく者がいた。
夏帆が薄目を開けると、そこには中年の女性が座っていた。
「あなたに逢いに来たわ」
その女性は柔らかな笑顔で言った。
「あ…」
夏帆はのそりと起き上がった。
夏帆は寝ぼけた頭のどこか船長が言っていた与那嶺おばぁのことを思いだす。
「…与那嶺おばぁさんですか?」
その女性は返事はしないが、ただ目じりを下げて微笑んだ。
真夜中のせいか夏帆の頭はカスミがかかっている。
はっきりとしない意識の中、夏帆はその場に正座をして向き合った。
おばぁと言われていたがその女性は想像より若かった。
笑うと目じりと口元に皺はあるが60前後の女性に見えた。
「あ、柊慈さん…」
夏帆が柊慈を起こそうとすると女性が手で制した。
「私はあなたに逢いに来たから寝かせておきましょう」
夏帆はなぜかすんなり従ってしまう。
「あなたは素敵な旦那さまと一緒になったわね」
「はい…」
「柊慈さんの想いがあまりにも強いから私も頑張らないとって、あなたをここに呼んだのよ。来てくれてありがとう。夏帆」
「なんで名前…知っているんですか?」
宿泊名簿でも見てきたのだろうかと思ったが、まるで夢の中のように頭がうまく回らない。
しかも女性は夏帆の問いかけに答えずにただ微笑むだけ。
「夏帆は昔から頑張り屋さんね。偉いわよ。でも、しんどい時はきちんと人を頼りなさい」
「え…」
まるで夏帆のことを昔から知っているかのような言い草だった。
やはりこの女性は霊能者なのだなと夏帆はぼんやりと考える。
「気分が落ち込むのも仕方ないわよ」
そう言ってその女性はそっと夏帆の下腹部に手を添えた。
「赤ちゃんがいるのよ。まだまだ小さいけどね」
嬉しそうにウィンクをした。
「あの…検査はしました。でも妊娠の反応は出なくて…」
「フライングよ。帰ったらもう一度、検査してみて」
「早かった…ってことですか?」
「そう。翔も喜んでいるわ。やっとママのお腹に来れたって」
女性は手を口にやりクスクス笑った。
夏帆はまさかの言葉に目を丸くする。
「翔…って。まさか…」
「赤ちゃんが産まれたら今より大変になるわ。でも、あなたの周りには手を差しのべてくれる人がたくさんいる。遠慮はしないで頼りなさい」
瞬きができない夏帆の目に涙があふれ出す。
「…でも私…もらいっぱなしで恩返しができない…」
「親切にしてくれた人に恩返しをしなくてもいいのよ」
女性は夏帆の頬に流れる涙をふき取ってくれる。
「もらいっぱなしなんて私はできないよ…」
夏帆は苦しそうに顔を振った。
女性はあらあらと呆れるように笑った。
「いつかあなたの子育てが落ち着いたら今度はあなたが困っているママを助けてあげるの。それが恩返し。そうやってみんなでつなげていけば恩返しの輪っかができる。ね、素敵でしょう?」
「恩返しの輪っか…うん、素敵…」
夏帆は涙が止まらない。
女性も泣き出しそうな顔で笑った。
そして両手を伸ばし夏帆をふわりと包み込んだ。
夏帆の全身の細胞が小さい頃の記憶を引き出そうとしていた。
「そばに居てあげられなくてごめんね。夏帆」
女性の抱きしめる力が一層強くなる。
夏帆の頭から消えていたと思っていた記憶がフラッシュバックしてくる。
色白の柔らかい肌、色素が薄い茶色の瞳。
いつも笑っている目じりのさがった眼。
三日月のようなきれいな形の唇。
そして、いつも自分を見守る優しい眼差し。
記憶とともに胸が高鳴り鼻の奥がキュンと熱く痛い。
「もう会えないかもしれない。でも、いつだってあなたのそばにいるから」
「…うん、うんっ。ありがとうっ」
今度は夏帆から女性に抱きついてゆく。
このぬくもりは絶対に忘れない。
「逢いに来てくれてありがとう。
お母さん…」
草木も眠る丑三時。
柊慈の横で眠る夏帆の肩をたたく者がいた。
夏帆が薄目を開けると、そこには中年の女性が座っていた。
「あなたに逢いに来たわ」
その女性は柔らかな笑顔で言った。
「あ…」
夏帆はのそりと起き上がった。
夏帆は寝ぼけた頭のどこか船長が言っていた与那嶺おばぁのことを思いだす。
「…与那嶺おばぁさんですか?」
その女性は返事はしないが、ただ目じりを下げて微笑んだ。
真夜中のせいか夏帆の頭はカスミがかかっている。
はっきりとしない意識の中、夏帆はその場に正座をして向き合った。
おばぁと言われていたがその女性は想像より若かった。
笑うと目じりと口元に皺はあるが60前後の女性に見えた。
「あ、柊慈さん…」
夏帆が柊慈を起こそうとすると女性が手で制した。
「私はあなたに逢いに来たから寝かせておきましょう」
夏帆はなぜかすんなり従ってしまう。
「あなたは素敵な旦那さまと一緒になったわね」
「はい…」
「柊慈さんの想いがあまりにも強いから私も頑張らないとって、あなたをここに呼んだのよ。来てくれてありがとう。夏帆」
「なんで名前…知っているんですか?」
宿泊名簿でも見てきたのだろうかと思ったが、まるで夢の中のように頭がうまく回らない。
しかも女性は夏帆の問いかけに答えずにただ微笑むだけ。
「夏帆は昔から頑張り屋さんね。偉いわよ。でも、しんどい時はきちんと人を頼りなさい」
「え…」
まるで夏帆のことを昔から知っているかのような言い草だった。
やはりこの女性は霊能者なのだなと夏帆はぼんやりと考える。
「気分が落ち込むのも仕方ないわよ」
そう言ってその女性はそっと夏帆の下腹部に手を添えた。
「赤ちゃんがいるのよ。まだまだ小さいけどね」
嬉しそうにウィンクをした。
「あの…検査はしました。でも妊娠の反応は出なくて…」
「フライングよ。帰ったらもう一度、検査してみて」
「早かった…ってことですか?」
「そう。翔も喜んでいるわ。やっとママのお腹に来れたって」
女性は手を口にやりクスクス笑った。
夏帆はまさかの言葉に目を丸くする。
「翔…って。まさか…」
「赤ちゃんが産まれたら今より大変になるわ。でも、あなたの周りには手を差しのべてくれる人がたくさんいる。遠慮はしないで頼りなさい」
瞬きができない夏帆の目に涙があふれ出す。
「…でも私…もらいっぱなしで恩返しができない…」
「親切にしてくれた人に恩返しをしなくてもいいのよ」
女性は夏帆の頬に流れる涙をふき取ってくれる。
「もらいっぱなしなんて私はできないよ…」
夏帆は苦しそうに顔を振った。
女性はあらあらと呆れるように笑った。
「いつかあなたの子育てが落ち着いたら今度はあなたが困っているママを助けてあげるの。それが恩返し。そうやってみんなでつなげていけば恩返しの輪っかができる。ね、素敵でしょう?」
「恩返しの輪っか…うん、素敵…」
夏帆は涙が止まらない。
女性も泣き出しそうな顔で笑った。
そして両手を伸ばし夏帆をふわりと包み込んだ。
夏帆の全身の細胞が小さい頃の記憶を引き出そうとしていた。
「そばに居てあげられなくてごめんね。夏帆」
女性の抱きしめる力が一層強くなる。
夏帆の頭から消えていたと思っていた記憶がフラッシュバックしてくる。
色白の柔らかい肌、色素が薄い茶色の瞳。
いつも笑っている目じりのさがった眼。
三日月のようなきれいな形の唇。
そして、いつも自分を見守る優しい眼差し。
記憶とともに胸が高鳴り鼻の奥がキュンと熱く痛い。
「もう会えないかもしれない。でも、いつだってあなたのそばにいるから」
「…うん、うんっ。ありがとうっ」
今度は夏帆から女性に抱きついてゆく。
このぬくもりは絶対に忘れない。
「逢いに来てくれてありがとう。
お母さん…」