【番外編】あなたが白制服に着替えたら、それが愛のはじまり
そして、数か月後。
「多分、男の子だろうな」
「なんで?」
「だって夏帆に会いに来た子は男の子だったんだろう?」
「うん。でも、それを信じる?」
これはこれから産まれてくる子供のための買い物をしているときの会話だ。
「夢の中のお母さんも”翔”って言ってたんだろう。じゃあ、やっぱり男の子だよな」
「ねえ柊慈さん。やっぱり性別を教えてもらおうよ」
出産するまで性別を知りたくないと柊慈が申し出たため、妊婦健診では内緒にされているのだ。
「性別は最後までお楽しみにしたい。洋服は白や黄色の無難な色で揃えておけばいいよ」
とウキウキだ。
夏帆も性別は楽しみでもある。
男の子だったらと想像すると、函館での翔との出会いは運命だったと思えるから。
そして、夏帆には産後のことを考えて柊慈にお願いしたいことがあった。
家に帰り着き夏帆はあるパンフレットを柊慈に差し出した。
「産後ケアセンター?」
ソファーに座る柊慈がパンフレットを手に取り中身を読んでゆく。
「私ね、産後はその施設に入りたいの。初めての出産だし不安がたくさんあるの。だからいいかな」
言えた。
夏帆はきちんと自分の不安と自分がどうしたいかを柊慈に伝えることができていた。
「もちろんいいよ」
そう言ってパンフレットを閉じてテーブルに戻した。
「でも、俺は育児休暇を取るつもりだから」
「育児休暇?」
まさかのワードに夏帆も驚いてしまう。
「忙しいのに育休なんて取ることができるの?」
「自衛隊も変わりつつあるんだよ。ワークライフバランス推進の一環で男性も育児休暇が取得できるんだ。だから夏帆と赤ちゃんの世話をするのは当然でしょう」
「ちゃんと考えてくれていたんだね…。嬉しい…」
「夏帆もきちんと自分の気持ちを伝えるようになったね。ありがとう」
ソファーに二人座り見つめ合う。
柊慈はそっと夏帆のぽっこりしたお腹に手を添えた。
「あとは元気に産まれてきてくれるだけだな」
「うん。そうだね…」
夏帆は自分のおなかを大事にさする柊慈の手を愛おしく見つめるのだった。
※
そして出産予定日の1週間前。
「イタタタ…」
皿洗いをしていた夏帆が手を止め顔をしかめた。
「大丈夫か?」
出勤前の柊慈が心配そうに駆け寄る。
「うん。大丈夫」
「本当に?それ陣痛じゃないの?」
「前駆陣痛ってものらしい。本陣痛とは違って、たまにキュウって痛むのよ。ほらもう痛みが消えた」
そう言って笑って見せた。
「でもいつ本陣痛になるかわからないんだろう。緊急連絡先、壁に貼っておこうか?」
「柊慈さん心配しすぎだよ。スマホに連絡先は入っているし」
「勤務中は俺のスマホに連絡してもとれない。だから職場にかけるんだぞ」
「わかってるって」
夏帆は余裕の笑みを浮かべた。
「じゃあ、夏帆。行ってくる」
チュッと唇を合わせる。
そして臨月のお腹をなでて、こちらにもご挨拶。
「行ってくるねー」
それは洗濯物を干しているときに突然やって来た。
ギューっとお腹と腰を締め付ける強烈な痛みが夏帆をおそう。
「痛い…」
朝の前駆陣痛とは比べ物にならない痛みだった。
「なに、この痛み…」
痛みがくるとその場から動くことができない。
夏帆は痛みの波が収まるのを待ってソファーにたどり着く。
呼吸を整えてほっと一息ついてから、再びあの痛みがやってきた。
(ちょっと待って、すっごく痛いけど…)
初めての出産で陣痛の痛みがどれほどなのかわからない。
頭が混乱してくる。
柊慈に連絡したほうがいいのか病院に行ったほうがいいのか、判断ができない。
その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
ちょうど痛みの波が途切れた。
ゆっくり玄関へ向かう。
それはお隣の小林ママと琴美だった。あれから夏帆は琴美とよく遊んでいたからこうやって来てくれるのだ。
「こんにちは。クロワッサン焼いたのよ。よかったらどうぞ」
「はい、ありがとう。イタタ…」
壁に手を付き苦悶する夏帆。
「あら、どうしたの?」
「少し痛みが強くなってきていて。イテテ…」
ついにその場にしゃがみ込んでしまった。
小林ママの目が光る。
「その痛み、どのくらいの間隔でやってくる?」
「…10分くらいかな」
「陣痛きてるじゃないの!」
「そ、そうなんですかっ。じゃあ、主人に連絡入れないと…。職場ってどこだったっけ…」
急なことで柊慈の職場の名称が思い出せない夏帆はさらに焦る。
その時、小林ママはすたっと立ち上がった。
「私に任せて」
そういって素早くスマホを取り出し、基地の電話番号をタップした。
「第一航空隊の成瀬さんをお願いします」と柊慈の職場を伝えた。
「今いない? では、『奥さんが産気づいたので、いますぐ病院に向かってください』とお伝えください!」
パキパキと伝言した。
そして、小林ママは夏帆に振り返る。
「夏帆さん、私が病院まで車で送るわ。入院セットはどこ?」
そのテキパキぶりに夏帆は頼もしいと見入ってしまう。
「リ、リビングです」
「おじゃまするわっ」
小林ママは靴脱いでリビングへと取に行った。
「かほちゃん、いたい?なでなでしてあげる」
琴美がお腹をやさしくさすってくれる。
そんな小さな子の優しさに夏帆は嬉しくて眉がさがる。
「…ありがとう」
小林ママの付き添いで夏帆は痛みが引いた合間に階段をおり車へと乗り込んだ。
夏帆はチャイルドシートに座る琴美の横に座った。
「さあ、病院に着くまでにこれ飲んで!」
夏帆は栄養ゼリーを渡された。
「え?」
「出産は体力勝負よ!エネルギーは取っておかないとね!」
「…ありがとうございます」
「さあ、出発するわよ。琴美、しっかり夏帆さんを励ますのよ!」
「よーそろー!!」
琴美が敬礼し可愛らしい掛け声で返事をした。
これは海上自衛隊で使われている『了解!』という意味の言葉!
「多分、男の子だろうな」
「なんで?」
「だって夏帆に会いに来た子は男の子だったんだろう?」
「うん。でも、それを信じる?」
これはこれから産まれてくる子供のための買い物をしているときの会話だ。
「夢の中のお母さんも”翔”って言ってたんだろう。じゃあ、やっぱり男の子だよな」
「ねえ柊慈さん。やっぱり性別を教えてもらおうよ」
出産するまで性別を知りたくないと柊慈が申し出たため、妊婦健診では内緒にされているのだ。
「性別は最後までお楽しみにしたい。洋服は白や黄色の無難な色で揃えておけばいいよ」
とウキウキだ。
夏帆も性別は楽しみでもある。
男の子だったらと想像すると、函館での翔との出会いは運命だったと思えるから。
そして、夏帆には産後のことを考えて柊慈にお願いしたいことがあった。
家に帰り着き夏帆はあるパンフレットを柊慈に差し出した。
「産後ケアセンター?」
ソファーに座る柊慈がパンフレットを手に取り中身を読んでゆく。
「私ね、産後はその施設に入りたいの。初めての出産だし不安がたくさんあるの。だからいいかな」
言えた。
夏帆はきちんと自分の不安と自分がどうしたいかを柊慈に伝えることができていた。
「もちろんいいよ」
そう言ってパンフレットを閉じてテーブルに戻した。
「でも、俺は育児休暇を取るつもりだから」
「育児休暇?」
まさかのワードに夏帆も驚いてしまう。
「忙しいのに育休なんて取ることができるの?」
「自衛隊も変わりつつあるんだよ。ワークライフバランス推進の一環で男性も育児休暇が取得できるんだ。だから夏帆と赤ちゃんの世話をするのは当然でしょう」
「ちゃんと考えてくれていたんだね…。嬉しい…」
「夏帆もきちんと自分の気持ちを伝えるようになったね。ありがとう」
ソファーに二人座り見つめ合う。
柊慈はそっと夏帆のぽっこりしたお腹に手を添えた。
「あとは元気に産まれてきてくれるだけだな」
「うん。そうだね…」
夏帆は自分のおなかを大事にさする柊慈の手を愛おしく見つめるのだった。
※
そして出産予定日の1週間前。
「イタタタ…」
皿洗いをしていた夏帆が手を止め顔をしかめた。
「大丈夫か?」
出勤前の柊慈が心配そうに駆け寄る。
「うん。大丈夫」
「本当に?それ陣痛じゃないの?」
「前駆陣痛ってものらしい。本陣痛とは違って、たまにキュウって痛むのよ。ほらもう痛みが消えた」
そう言って笑って見せた。
「でもいつ本陣痛になるかわからないんだろう。緊急連絡先、壁に貼っておこうか?」
「柊慈さん心配しすぎだよ。スマホに連絡先は入っているし」
「勤務中は俺のスマホに連絡してもとれない。だから職場にかけるんだぞ」
「わかってるって」
夏帆は余裕の笑みを浮かべた。
「じゃあ、夏帆。行ってくる」
チュッと唇を合わせる。
そして臨月のお腹をなでて、こちらにもご挨拶。
「行ってくるねー」
それは洗濯物を干しているときに突然やって来た。
ギューっとお腹と腰を締め付ける強烈な痛みが夏帆をおそう。
「痛い…」
朝の前駆陣痛とは比べ物にならない痛みだった。
「なに、この痛み…」
痛みがくるとその場から動くことができない。
夏帆は痛みの波が収まるのを待ってソファーにたどり着く。
呼吸を整えてほっと一息ついてから、再びあの痛みがやってきた。
(ちょっと待って、すっごく痛いけど…)
初めての出産で陣痛の痛みがどれほどなのかわからない。
頭が混乱してくる。
柊慈に連絡したほうがいいのか病院に行ったほうがいいのか、判断ができない。
その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
ちょうど痛みの波が途切れた。
ゆっくり玄関へ向かう。
それはお隣の小林ママと琴美だった。あれから夏帆は琴美とよく遊んでいたからこうやって来てくれるのだ。
「こんにちは。クロワッサン焼いたのよ。よかったらどうぞ」
「はい、ありがとう。イタタ…」
壁に手を付き苦悶する夏帆。
「あら、どうしたの?」
「少し痛みが強くなってきていて。イテテ…」
ついにその場にしゃがみ込んでしまった。
小林ママの目が光る。
「その痛み、どのくらいの間隔でやってくる?」
「…10分くらいかな」
「陣痛きてるじゃないの!」
「そ、そうなんですかっ。じゃあ、主人に連絡入れないと…。職場ってどこだったっけ…」
急なことで柊慈の職場の名称が思い出せない夏帆はさらに焦る。
その時、小林ママはすたっと立ち上がった。
「私に任せて」
そういって素早くスマホを取り出し、基地の電話番号をタップした。
「第一航空隊の成瀬さんをお願いします」と柊慈の職場を伝えた。
「今いない? では、『奥さんが産気づいたので、いますぐ病院に向かってください』とお伝えください!」
パキパキと伝言した。
そして、小林ママは夏帆に振り返る。
「夏帆さん、私が病院まで車で送るわ。入院セットはどこ?」
そのテキパキぶりに夏帆は頼もしいと見入ってしまう。
「リ、リビングです」
「おじゃまするわっ」
小林ママは靴脱いでリビングへと取に行った。
「かほちゃん、いたい?なでなでしてあげる」
琴美がお腹をやさしくさすってくれる。
そんな小さな子の優しさに夏帆は嬉しくて眉がさがる。
「…ありがとう」
小林ママの付き添いで夏帆は痛みが引いた合間に階段をおり車へと乗り込んだ。
夏帆はチャイルドシートに座る琴美の横に座った。
「さあ、病院に着くまでにこれ飲んで!」
夏帆は栄養ゼリーを渡された。
「え?」
「出産は体力勝負よ!エネルギーは取っておかないとね!」
「…ありがとうございます」
「さあ、出発するわよ。琴美、しっかり夏帆さんを励ますのよ!」
「よーそろー!!」
琴美が敬礼し可愛らしい掛け声で返事をした。
これは海上自衛隊で使われている『了解!』という意味の言葉!