【番外編】あなたが白制服に着替えたら、それが愛のはじまり
夏帆編:『それは未来の暗示』
※これは井沢夏帆が柊慈と出会う前の失恋直後のお話です※
「イタコの口寄せ?」
夏帆はそう言うと、ぽかんと口を開けてしまう。
「そう。ちょー有名なイタコの口寄せ予約が取れたのよ!」
これは夏帆が失恋して間もないころの話。
元気のない夏帆を真希が励まそうと、恐山のイタコの口寄せに夏帆を連れ出そうとしていた。
「ちょっとまって、占いならわかるけど…。イタコって亡くなった人をおろして口寄せしてもらうんだよね? 私、誰をおろしてもらうの?」
「それがこのイタコさん、普通とはちょっと違うの。人の未来が視えるらしい」
「霊能力的な? 騙されてない?」
「かなり強力なコネクション使ったんだよ? 世間にはあまり知られてない筋金入りの本物!」
「ちょっと怖いな…」
「いいじゃん。こんな機会なんて滅多にないよ。視てもらおうよ、夏帆の運命の人。ついでに函館まで足をのばそう。気分転換にねっ」
「…うん。真希、ありがとう」
きっと失恋をして元気のない自分に、真希なりに気を遣ってくれているのだろう。なら有難く付き合ってみようと夏帆は思った。
※
恐山のイタコは普段は自宅に住んでいる。
真希に連れてこられたイタコの家は昔ながらの大きな旧家だった。
そして二人は薄暗い奥座敷に通された。
電気を付けない和室は暗く少し怖い。
その部屋には一人の老婆が腰かけ椅子に座って待っていた。
膝が悪いのか膝掛けをしている。
その上に揃えられた指はひどく変形していた。
顔は皺くちゃで瞳は白濁している。
雰囲気はまさに霊能者といった感じだった。
真希が口を開く。
「この子、失恋をしたんです。運命の人には、いつ出会えますか?」
イタコは少し間をおいて答える。
「…次も辛い恋になる」
「あ…」
夏帆の表情が曇ってゆく。
真希があちゃーという表情を作った。
「でも乗り越えれば、それはやがて愛になる」
「はあ…」
イタコのアドバイスは抽象的すぎて夏帆も真希もピンとこない。
「その出会いは、いつ頃ですか?」
真希が身を乗り出して訊ねた。
「もう動き出している」
「え?」
失恋をしたばかりの夏帆はそれはないと思った。もともと恋愛には慎重だ。
すぐに恋におちる男性に出会うわけがない。いや、出会ったとしても理性で留まるだろうと。
「運があなたに味方している」
イタコは変形した指で夏帆をそっと指さした。
夏帆はなぜか吸い込まれそうなほど引きつけられた。
「えっと、もっと具体的に教えてもらっても」
真希が突っ込んだ。
イタコは見えているのかわからない濁った眼で夏帆をじっと見つめる。そして、
「あなたは、あなたのままでいい」
「…私のまま?」
「そう」
夏帆のままでいい、そう背中を押された気がした。自信を無くしていた夏帆の胸に響いて、泣きそうになってしまった。
「疲れた…。今日は終わり」
イタコは静かに眼を閉じた。
夏帆の心はなぜか穏やかで温かくなった。そして、このイタコに何かお礼がしたいと思った。
「あの…手を握ってもよろしいですか?」
突然、夏帆がイタコにお願いをした。
「夏帆?どうした」
真希が驚いている。
夏帆はイタコの変形した手をゆっくりと拾い上げて自分の手で包み込んだ。
「やっぱり…冷えてますね」
イタコは見えていないであろう眼を見開いた。
「リウマチですよね。冷えは一番の大敵です。冷えたら手だけお湯に付けるとか手袋をつけたりして保温するといいですよ」
夏帆が丁寧に説明した。
するとイタコの眼がぎょろりと夏帆を捉えた。
そして今度はイタコが変形した手で夏帆の手を握り返してきた。
「え?」
すると不思議なことに、冷えていたとは思えないほどイタコの手の温度が上がっていった。それはホカホカというより発熱しているのではないかという温度だった。
「…あなたに一日だけ霊力を授けた」
「霊力って?」
夏帆は熱くなった手に戸惑いながら訊ねた。しかしイタコは完全に眼を閉じてしゃべらなくなってしまった。
「イタコの口寄せ?」
夏帆はそう言うと、ぽかんと口を開けてしまう。
「そう。ちょー有名なイタコの口寄せ予約が取れたのよ!」
これは夏帆が失恋して間もないころの話。
元気のない夏帆を真希が励まそうと、恐山のイタコの口寄せに夏帆を連れ出そうとしていた。
「ちょっとまって、占いならわかるけど…。イタコって亡くなった人をおろして口寄せしてもらうんだよね? 私、誰をおろしてもらうの?」
「それがこのイタコさん、普通とはちょっと違うの。人の未来が視えるらしい」
「霊能力的な? 騙されてない?」
「かなり強力なコネクション使ったんだよ? 世間にはあまり知られてない筋金入りの本物!」
「ちょっと怖いな…」
「いいじゃん。こんな機会なんて滅多にないよ。視てもらおうよ、夏帆の運命の人。ついでに函館まで足をのばそう。気分転換にねっ」
「…うん。真希、ありがとう」
きっと失恋をして元気のない自分に、真希なりに気を遣ってくれているのだろう。なら有難く付き合ってみようと夏帆は思った。
※
恐山のイタコは普段は自宅に住んでいる。
真希に連れてこられたイタコの家は昔ながらの大きな旧家だった。
そして二人は薄暗い奥座敷に通された。
電気を付けない和室は暗く少し怖い。
その部屋には一人の老婆が腰かけ椅子に座って待っていた。
膝が悪いのか膝掛けをしている。
その上に揃えられた指はひどく変形していた。
顔は皺くちゃで瞳は白濁している。
雰囲気はまさに霊能者といった感じだった。
真希が口を開く。
「この子、失恋をしたんです。運命の人には、いつ出会えますか?」
イタコは少し間をおいて答える。
「…次も辛い恋になる」
「あ…」
夏帆の表情が曇ってゆく。
真希があちゃーという表情を作った。
「でも乗り越えれば、それはやがて愛になる」
「はあ…」
イタコのアドバイスは抽象的すぎて夏帆も真希もピンとこない。
「その出会いは、いつ頃ですか?」
真希が身を乗り出して訊ねた。
「もう動き出している」
「え?」
失恋をしたばかりの夏帆はそれはないと思った。もともと恋愛には慎重だ。
すぐに恋におちる男性に出会うわけがない。いや、出会ったとしても理性で留まるだろうと。
「運があなたに味方している」
イタコは変形した指で夏帆をそっと指さした。
夏帆はなぜか吸い込まれそうなほど引きつけられた。
「えっと、もっと具体的に教えてもらっても」
真希が突っ込んだ。
イタコは見えているのかわからない濁った眼で夏帆をじっと見つめる。そして、
「あなたは、あなたのままでいい」
「…私のまま?」
「そう」
夏帆のままでいい、そう背中を押された気がした。自信を無くしていた夏帆の胸に響いて、泣きそうになってしまった。
「疲れた…。今日は終わり」
イタコは静かに眼を閉じた。
夏帆の心はなぜか穏やかで温かくなった。そして、このイタコに何かお礼がしたいと思った。
「あの…手を握ってもよろしいですか?」
突然、夏帆がイタコにお願いをした。
「夏帆?どうした」
真希が驚いている。
夏帆はイタコの変形した手をゆっくりと拾い上げて自分の手で包み込んだ。
「やっぱり…冷えてますね」
イタコは見えていないであろう眼を見開いた。
「リウマチですよね。冷えは一番の大敵です。冷えたら手だけお湯に付けるとか手袋をつけたりして保温するといいですよ」
夏帆が丁寧に説明した。
するとイタコの眼がぎょろりと夏帆を捉えた。
そして今度はイタコが変形した手で夏帆の手を握り返してきた。
「え?」
すると不思議なことに、冷えていたとは思えないほどイタコの手の温度が上がっていった。それはホカホカというより発熱しているのではないかという温度だった。
「…あなたに一日だけ霊力を授けた」
「霊力って?」
夏帆は熱くなった手に戸惑いながら訊ねた。しかしイタコは完全に眼を閉じてしゃべらなくなってしまった。