勘違い一夜から始まる極甘策士なドクターの激愛婚〜偽装結婚は旦那様の甘い罠でした〜
 火曜日の午後二時、自分のデスクで新製品の資料をバッグに入れながらぼんやり考えていると、四十代後半の野島(のじま)さんという男性社員が私に声をかけてくる。

「八影さん、準備できてる? そろそろ行くぞー」
「はい」

 背筋を伸ばして返事をする。とにかく今は仕事!と切り替えてバッグを持ち、腰を上げた。

 営業部に所属している私は、先輩や上司と一緒に取引先を訪問することが多い。今日も、腕のいいドクターが多いことで全国的に有名な『白藍(しろあい)総合病院』へと向かう。

 今回提案するのは、新モデルの形成外科用の顕微鏡。神経や血管などの繊細な再建手術を行うときに使う機器で、従来のものよりもさらに精度が高くなっている。

 野島さんが運転する車の中で製品の情報を再度確認してから、オフホワイトとブラウンの外壁が落ち着いた印象の大きな病院に足を踏み入れた。

 応接室がある棟へ向かう途中、形成外科の前を通る。レーザー治療のために、十代の頃はここへ定期的に来ていた。

 そろそろまた治療しなきゃいけないなと思っていると、野島さんが話しかけてくる。

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