勘違い一夜から始まる極甘策士なドクターの激愛婚〜偽装結婚は旦那様の甘い罠でした〜
 私も、美桜に対しては〝愛想をよくしなきゃ〟と考えなくていいからとても気がラクだ。

 本当の私を知っても仲よくしてくれる人は美桜だけではないし、そういう心の広い人たちのおかげで、私は幸せに生きていると自負している。ただひとつ、恋愛を除いて。

 ぼんやりと過去のあれこれを思い返し、ひとり言をつぶやく。

「美桜みたいに、私の全部を受け入れてくれる人って現れるのかな……」
「ん? なに?」

 よく聞き取れなかったらしく首を傾げる彼女に、かぶりを振って「なんでもない」と返した。運命の人が現れるかどうかなんて、誰にもわからないよね。

 しばらくまったりとたわいのない話をして、そろそろ中のお風呂に行こうとふたりで腰を上げる。なんとなく、右足の太ももをタオルで隠して。

 ここには、生まれつきの疾患で大きめの痣があるのだ。目立つので幼い頃から定期的に治療しているが、赤みが消えるのは一時的で再発を繰り返してしまう。今も少し色が濃くなってきているので、あまり人前でさらしたくはない。

 それでも、やりたいことを我慢するのは嫌なので、こうして温泉にも来ている。ただ……昔の苦い思い出も、この赤い印に封印されている。


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